一日一曲(1719)ダウランド、ジョン:涙のパヴァーヌ

 本日は、没後400年(1626年2月20日没)を迎えらえたイギリスの作曲家兼リュート奏者、ジョン・ダウランドさんの曲をご紹介します。

【ジョン・ダウランド:繊細な憂いと涙を歌に託した、リュート音楽の至宝】
 ジョン・ダウランドは、1563年(生誕地はアイルランド、またはロンドン近郊と諸説あり)に生まれ、1626年2月20日にロンドンで没した、ルネサンス期イギリスを代表する作曲家であり、卓越したリュート奏者です。
 彼の人生は、類まれなる才能とは裏腹に、望んだ地位をなかなか得られない「不遇」との戦いでもありました。エリザベス1世の宮廷リュート奏者のポストを熱望していましたが、彼がカトリック教徒であったことが政治的・宗教的な障壁となり、長年その夢は叶いませんでした。この拒絶による疎外感は、彼の音楽の根底にある深い悲しみの源泉となったと言われています。
 そのため、彼は活動の場をヨーロッパ大陸に求め、ドイツやイタリアの諸侯に仕えました。1598年にはデンマーク王クリスチャン4世に破格の待遇で抱えられ、国際的な名声を不動のものにします。しかし、高額な報酬を得てもなお、母国イギリスへの帰還と宮廷への出仕を諦めることはありませんでした。
 ダウランドの音楽の大きな特徴は、「メランコリー(憂鬱)」を芸術の域まで高めた点にあります。「ダウランド、常に悲しむ(Semper Dowland semper dolens)」という言葉を自ら標榜するほど、彼の作品には深く繊細な哀愁が漂っています。1612年、ようやく念願だったイングランド王室の宮廷奏者に任命されましたが、その頃にはすでに時代の流行が移り変わり始めていました。晩年は創作の筆が鈍ったと伝えられていますが、彼が完成させたリュート歌曲や独奏曲は、当時の音楽語法を大きく進化させ、バロック期への架け橋となる多大な影響を後世に遺しました。
 
【本日のご紹介曲:涙のパヴァーヌ(Lachrimae Pavan, P.15)】
 16世紀末から17世紀初頭にかけて、ヨーロッパ全土で絶大な人気を誇ったのが、本日ご紹介する「涙のパヴァーヌ」です。パヴァーヌとは、当時宮廷で踊られていた「ゆったりとした2拍子の舞曲」を指します。ダウランドはこの曲をまずリュート独奏曲として発表し、後に「流れよ、わが涙(Flow my tears)」という歌詞付きの歌曲としても世に送り出しました。
 この旋律は当時の人々の心を強く捉え、多くの作曲家たちがこぞって引用や編曲を行うなど、現代でいうところの「世界的なスタンダード・ナンバー」のような存在となりました。

【聴きどころ】
1)「涙のモチーフ」の調べ
 曲の冒頭、高い音から低い音へと「ラーソファーミー」と降りてくる4つの音が、まさに「頬を伝う涙」を表しています。このシンプルながらも胸を打つフレーズを意識して聴いてみてください。
2)リュートの繊細な響き
 ギターよりも少し柔らかく、どこか儚いリュートの音色は、この曲の切なさをより引き立てます。一音一音が空間に溶けていくような、静寂をも楽しむ感覚で聴くのがおすすめです。
3)重なり合う音の対話
 単なるメロディだけでなく、低い音と高い音が対話するように追いかけっこをしたり、時に複雑に絡み合ったりします。ルネサンス音楽特有の、美しい「音の重なり(対位法)」を感じることができます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ダウランド、ジョン:涙のパヴァーヌ

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