一日一曲(1740)ジョンストン、ベン:弦楽四重奏曲第4番「アメイジング・グレイス」
本日は、生誕100年(1926年3月15日生)を迎えらえたアメリカの作曲家、ベン・ジョンソンさんの曲をご紹介します。
【ベン・ジョンソン:独自の記譜法と緻密な計算に基づき、純正律による豊かな響きの可能性を極限まで追求したアメリカ現代音楽界の巨匠】
ベン・ジョンソン(Benjamin Burwell Johnston Jr.)は、1926年3月15日、アメリカ合衆国ジョージア州メーコンに生まれました。幼少期からピアノに親しみ、学究肌の音楽家として成長した彼は、ノースカロライナ大学やシンシナティ音楽院で学んだ後、ダリウス・ミヨーやジョン・ケージといった20世紀を代表する作曲家たちに師事します。
彼の音楽人生において最大の転換点となったのは、1950年に「微分音音楽の先駆者」として知られるハリー・パーチと出会ったことでした。ジョンソンはカリフォルニア州グアララにあるパーチの工房で助手として働き、既存の「平均律」という調律体系に縛られない、自然な倍音に基づいた「純正律」の深淵に触れます。この経験が、彼の生涯をかけたテーマである「拡張された純正律」の探求へと繋がりました。
1951年からはイリノイ大学で教鞭を執り、作曲と音楽理論を教えながら、自身の創作活動を本格化させます。彼の特筆すべき点は、極めて数学的で複雑な理論を用いながらも、ジャズやブルース、アメリカの民謡といった土着的な要素を巧みに融合させたことです。特に、彼が考案した独自の記譜法は、1オクターブを数十から数百の微細な音程に書き分けるものであり、楽譜はまるで精密な設計図のような外観を呈しました。演奏者には耳の限界に挑むような正確さが求められましたが、その結果として生まれる響きは、宇宙的な広がりと驚くべき透明感を持っていました。
晩年は、弦楽四重奏曲全10曲の全曲録音プロジェクト(ケプラー・カルテットによる)の完遂を見守るなど、その功績が改めて世界的に評価されました。認知症の合併症を患いながらも、静かな余生を過ごし、2019年7月21日にウィスコンシン州ディアー・パークにて、93歳でその波乱に満ちた創造の生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲::弦楽四重奏曲第4番「アメイジング・グレイス」】
この作品は1973年、ファイン・アーツ・カルテットの委嘱により作曲されました。世界で最も有名な賛美歌「アメイジング・グレイス」をテーマにした変奏曲ですが、ジョンソンが提唱する「拡張された純正律」を最も体感しやすい傑作として知られています。ピッチとリズムを変奏ごとに細分化するため、最終変奏直前では楽譜が真っ黒になるほどの指示で埋め尽くされています。
【聴きどころ】
1)純正律がもたらす「真の調和」
曲の冒頭で提示される旋律は、私たちが普段聴くピアノの音(平均律)とは微妙に異なる高さで演奏されます。濁りのない純粋な和音の響きが、聴き手の身体にスッと溶け込んでいくような感覚を味わえます。
2)数学的かつ有機的な変奏のプロセス
全編を通して、主題の旋律が数学的な比率に基づいて徐々に細かく、複雑に変化していきます。最初は穏やかな川の流れのようだった音楽が、次第に複雑な渦を巻き、万華鏡のように色彩を変えていく展開が見事です。
3)驚異的なリズムの重なり
曲が進むにつれ、各楽器が異なる速度(ポリテンポ)で動く場面が登場します。旋律の美しさを保ちながらも、高度なテクニックによって構築された多層的な音の世界は、圧巻の迫力を持っています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ジョンストン、ベン:弦楽四重奏曲第4番「アメイジング・グレイス」
ジョンストン、ベン:弦楽四重奏曲第4番「アメイジング・グレイス」(amazon music)
|
|
