一日一曲(1237)エネスク、ジョルジェ:ヴァイオリンソナタ第3番イ短調「ルーマニア民俗風で」

 本日は、昨日ご紹介した作曲家のお弟子さんであった、ルーマニアのヴァイオリニスト兼作曲家、ジョルジェ・エネスクさんの曲をご紹介します。

 エネスクさんは1881年にルーマニア北部にあるリヴェニ(Liveni)村で生まれました。現在ではここはボトシャニ県の「ジョルジェ・エネスク」という名の小自治体になっているとのことです。また、ルーマニアで発行されている5レイ紙幣にエネスクさんの肖像が使用されていらっしゃいます。幼年期より楽才を発揮し、7歳でウィーン音楽院に進学、13歳を迎えずして銀メダルを授与されています。1895年にパリ音楽院に進学し、さらに研鑽を重ねられました。卒業後はヴァイオリニストおよび作曲家として活躍されました。特にヴァイオリンではクライスラーやティボーと共に「20世紀前半の三大ヴァイオリニスト」の一人に数えられています。永年フランスとルーマニアを拠点にヨーロッパ各地及びアメリカで活躍されましたが、第二次世界大戦後にルーマニアが共産圏の支配下に入ってからは、1955年に亡くなられるまで二度と祖国に戻りませんでした。
 作曲家としては、ルーマニアの民俗音楽からの影響のもとでロマン的な音楽を多く遺されました。若い頃は作曲の筆は速かったそうですが、1901年に書かれた「協奏交響曲」の初演の大失敗、それが引き金となり、以降は作曲に時間がかかるようになったとのことです。さらに、多くの前衛的な作曲家が世の中に出たため、作風が「古風」寄りのエネスクさんは、より寡作化してしまったとのことです。

 本日の曲は『ヴァイオリンソナタ第3番イ短調「ルーマニア民俗風で」』です。1926年11月、作曲者45歳の時に完成した本作品は、エネスコさんが作曲した最後のヴァイオリンソナタとなったと同時に、エネスコの最高傑作の一つに数えられています。20世紀のヴァイオリンソナタを代表する作品でもあります。「ルーマニア民俗風で」という題名が示す通り、ルーマニアの民族音楽からの影響が強く感じられる曲ですが、民族音楽のメロディなどをそのまま引用している、というわけではありません。エネスクさんは、本曲に関して「民族音楽の様式で」と呼ぶよりも「民族音楽の性格で」と呼ぶことを良しとされたそうですが、そのような部分を物語っているのでしょう。即興演奏を思わせるような部分は「ジプシー」のフィドル演奏の特徴が良く表現されています。ポルタメントやビブラートの活用に加えて、フラジオレットやスル・タストといった特殊奏法も「ルーマニア民俗風」の性格を形作るのに大きく寄与しています。耳障りの良いメロディや展開が多用されているわけではないので、初めて聴いた場合などはちょっととっつきにくさを感じるかもしれません。何度も聴き込んでいるうちに本曲の魅力が体に沁み込んでくる感じではないかと思います。噛めば噛むほど味が出る、スルメのような曲と言えるかもしれません。

 多少録音状態は古いですが、貴重な自作自演でお聴きください。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
エネスク、ジョルジェ:ヴァイオリンソナタ第3番イ短調「ルーマニア民俗風で」

エネスク、ジョルジェ:ヴァイオリンソナタ第3番イ短調「ルーマニア民俗風で」(MP3ダウンロード)

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