一日一曲(1908)シュトルツァー、トーマス:詩編第37篇

 本日は、没後500年(1526年3月頃没)を迎えらえたドイツの作曲家、トーマス・シュトルツァーさんの曲をご紹介します。

【トーマス・シュトルツァー:宗教改革の嵐が吹き荒れる中、ルターの訳したドイツ語に命を吹き込み、新たな時代の響きを切り拓いた悲劇の宮廷楽長】
 トーマス・シュトルツァーは1480年頃、シレジア地方のシュヴィドニツァ(現在のポーランド)に生まれました。幼少期の詳細な記録は限られていますが、質の高い音楽教育を受けて育ち、1519年前後からはブレスラウ(現在のヴロツワフ)の聖ヨハネ大聖堂で聖歌隊員や執事として活動していたと伝えられています。この時期にすでにフランドル楽派の高度な対位法技法を修得しており、優れた作曲家としての名声を高めていきました。
 彼の転機となったのは1522年、ハンガリーおよびボヘミアの国王ラヨシュ2世の宮廷楽長(カペルマイスター)に任命されたことです。首都ブダの宮廷に迎えられたシュトルツァーは、王妃マリア(神聖ローマ皇帝カール5世の妹)の強力な庇護のもとで活発な作曲活動を展開しました。王妃マリアは宗教改革の提唱者マルティン・ルターの思想に強い関心を寄せていた人物でした。シュトルツァー自身もルター派の思想に共鳴し、伝統的なカトリックの宮廷に仕えながらも、ルターがドイツ語に翻訳した聖書のテキストを用いて、前例のない規模の多声宗教曲を次々と発表しました。
 かつては1526年8月のモハーチの戦いで戦死したと考えられていましたが、近年の史料研究により、彼はそれ以前の1526年3月頃、ズナイム(現在のチェコ・ズノイモ)近郊のタヤ川で溺死するという悲劇的な最期を遂げていたことが判明しています。46歳前後での突然の死でしたが、彼の遺作となった作品群は、ヨーロッパ音楽が中世・ルネサンスの伝統からプロテスタント音楽の新たな時代へと大きく踏み出す道標となりました。

【本日のご紹介曲:詩編第37篇(悪をなす者のゆえに心を騒がすな)】
 当時、宗教的な合唱曲といえばラテン語で歌われるのが絶対的な決まりでした。しかし、1526年の初頭(1月〜3月頃)に完成したこの作品は、ルターがドイツ語に翻訳した聖書(詩編第37篇)の言葉をそのまま歌詞に使った、音楽史的にも大変珍しく貴重な大作です。ハンガリー王妃マリアに捧げるために書かれた全7部からなる壮大な作品で、6つの声部が織りなす厚みのある合唱によって演奏されます。ドイツ語という言語が持つ特有の強いアクセントや言葉の美しいリズムが見事に活かされており、古い時代の厳格な合唱スタイルを守りつつも、新しい時代の息吹を感じさせる重厚で力強い響きを堪能できる名曲です。

【聴きどころ】
1)ドイツ語の響きがそのまま生きた「言葉の力強さ」
 ラテン語のなめらかな歌声とは一味違う、ドイツ語特有のハッキリとした子音の響きや言葉の抑揚が、そのまま旋律の躍動感になっています。歌詞の意味や大切な言葉が歌声の中でくっきりと浮き上がってくるドラマチックな表現に注目です。

2)6つの歌声が緻密に絡み合う「重厚で立体的なポリフォニー」
 一般的な4声ではなく「6声部」という豊かな編成が採用されています。ひとつのメロディを別の声部が追いかけて歌う「カノン」などの高度な技法を駆使し、6つの歌声が複雑に重なり合いながら壮大な音の大聖堂を作り上げていく様子は圧巻です。

3)全7部で描かれる「ドラマチックな変化とスケール感」
 曲が全7部という長大な構成になっているため、場面によって歌う声部の組み合わせや密度が細かく変化します。祈りを込めた静かなパートから、全声部がうねるように押し寄せる迫力あるパートまで、約20分間にわたる音の絵巻物を飽きることなく楽しむことができます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
シュトルツァー、トーマス:詩編第37篇

シュトルツァー、トーマス:詩編第37篇(amazon music)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

新時代の名曲名盤500+100 (ONTOMO MOOK) [ レコード芸術 ]
価格:2,640円(税込、送料無料) (2026/8/15時点)

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です