一日一曲(1865)エリオット、ウィラード:15世紀のフランスの歌による組曲
本日は、生誕100年(1926年7月18日生)を迎えらえたアメリカのファゴット奏者兼作曲家、ウィラード・エリオットさんの曲をご紹介します。
【ウィラード・エリオット:古き良き旋律に現代の色彩を吹き込み、名門オーケストラの土台を支え抜いた多才な巨匠】
ウィラード・サマーズ・エリオットは、1926年7月18日にアメリカのテキサス州フォートワースに生まれました。幼い頃から両親が持つオペラのレコードを聴いて育った彼は、ピアノやクラリネットを学んだ後、14歳で生涯の相棒となるファゴットに出会います。実はもっと早くからこの楽器を吹きたがっていたそうですが、夫人の回想によると「ファゴットを構えられる体格に成長するのをじっと待っていた」という、微笑ましくも並々ならぬ情熱を感じさせるエピソードが残されています。彼の音楽的才能の開花は早く、ノーステキサス大学を卒業後、名門イーストマン音楽学校へと進学しました。そこでは高名なバーナード・ロジャーズに作曲と管弦楽法を師事し、なんと19歳という若さで作曲の修士号を取得しています。
大学卒業後はヒューストン交響楽団やダラス交響楽団でキャリアを重ね、1964年には世界最高峰のオーケストラの一つであるシカゴ交響楽団の首席ファゴット奏者に就任しました。1997年に退団するまでの33年間にわたり、彼は楽団の木管セクションの堅牢な土台としてアンサンブルを支え続けました。室内楽でも熱心に活動し、1986年には「シカゴ・プロ・ムジカ」のメンバーとしてグラミー賞を受賞しています。また、10歳の頃から化石収集に熱中し、晩年には自宅のガレージが博物館級のコレクションで一杯になっていたという、ユニークな文化人の顔も持ち合わせていました。
1997年にシカゴ響を引退した後は、故郷のフォートワースへと戻り、テキサス・クリスチャン大学で熱心に後進の指導にあたりました。そして2000年6月7日、多くの音楽家や教え子に惜しまれつつ、生まれ故郷であるフォートワースの地で73年の生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:15世紀のフランスの歌による組曲】
この作品は、エリオットがシカゴ交響楽団の首席奏者として円熟期を迎えていた1978年に作曲(編曲)された、オーボエ、ファゴット、ピアノのための風情豊かな木管アンサンブル曲です。 エリオットは生涯を通じて、古い時代の親しみやすい名曲を現代の息吹で蘇らせる組曲をいくつか手がけました。本作もその一つであり、15世紀のフランスで親しまれていた以下の6つの民謡や古謡の美しさをそのまま活かしつつ、20世紀の洗練された近代的なハーモニーを巧みに融合させています。
<組曲を構成する6つの歌のタイトル>
第1曲:Fortune a tort(運命は理不尽なもの)
第2曲:Je suis trop jeunette(私はまだ幼すぎる)
第3曲:Reveillez vous Piccars(目覚めよ、ピカルディの人々よ)
第4曲:En regardant vo gratieux mantieu(あなたの優雅なマントを眺めながら)
第5曲:James d’amoureax couart n’orrey bien dire(臆病な恋人の良い噂など聞いたことがない)
第6曲:Ma seulle dame sur ma foy(誓って、私だけの貴婦人よ)
まるで歴史あるヨーロッパの古城に、現代の鮮やかな照明を当てたかのような、新旧の対比が心地よい珠玉の小品集です。
【聴きどころ】
1)絶妙な「ちょっぴりおかしな」和音の響き
15世紀の素朴でどこか懐かしいメロディの背景に、エリオットはあえて現代風の「あえて外したような和音(ライトノート・ハーモニー)」や、2つの異なる調性を同時に鳴らす手法を取り入れています。この仕掛けによって、古い曲なのにとても新鮮でピリッとしたユーモアを感じられます。
2)オーボエとファゴットが織りなす極上の対話
ファゴットの名手であったエリオットだからこそ、木管楽器の魅力を知り尽くした無駄のない楽器配置( lean instrumentation )が施されています。高音で華やかに歌うオーボエと、低音でユーモラスかつ雄弁に語るファゴットの掛け合いは、まるで仲の良い2人の役者が舞台で即興劇を楽しんでいるかのようです。
3)原曲の心を失わないリッチな装飾
メロディの周りには、生き生きとした対旋律(主旋律を引き立てる別のメロディ)や、きらびやかな音の装飾が散りばめられています。しかし、決して原曲の邪魔をすることはなく、それぞれの歌が持つ本来の表情や感情の色彩が、よりくっきりと鮮やかに引き立てられている点にエリオットの職人技が光ります。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
エリオット、ウィラード:15世紀のフランスの歌による組曲
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