一日一曲(1863)ニェッキ、ヴィットリオ:パヴァーヌ イ長調
本日は、生誕150年(1876年7月17日生)を迎えらえたイタリアの作曲家、ヴィットリオ・ニェッキさんの曲をご紹介します。
【ヴィットリオ・ニェッキ:リヒャルト・シュトラウスとの「旋律酷似」を巡る大論争の渦中に置かれながらも、気高く美しい響きを紡ぎ続けた知られざるイタリアの鬼才】
ヴィットリオ・ニェッキ(Vittorio Gnecchi Ruscone)は、1876年7月17日にイタリアのミラノで、裕福な実業家の家庭に生まれました。恵まれた環境の中で一流の教師陣から私淑して音楽を学び、わずか19歳で発表した牧歌劇『愛の美徳(Virtù d’amore)』が名門出版社のリコルディ社から出版されるなど、早くからその才能を開花させます。
彼の代表作となったオペラ『カッサンドラ』は1905年にボローニャで、大指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの指揮により初演され大きな成功を収めました。しかし1909年、リヒャルト・シュトラウスの新作オペラ『エレクトラ』が発表されると事態は一変します。『エレクトラ』の劇中の旋律がニェッキの『カッサンドラ』と酷似しているとして、音楽学者のジョヴァンニ・テバルディーニが「音楽的テレパシー(盗作疑惑)」を指摘する論争を巻き起こしたのです。シュトラウス自身は意図的な模倣を否定し、ニェッキ本人もこの件に関して生涯沈黙を貫きましたが、この騒動は皮肉にもニェッキがイタリア国内の歌劇場や批評家から異端視され、敬遠されるきっかけとなってしまいました。
その後、彼はイタリア国外での上演で高い評価を得つつ、新たな大作オペラ『ユディット(Judith)』の創作に取りかかります。第一次世界大戦中に着手されたこの作品は、第二次世界大戦後までの30年以上にわたる長い推敲を経て完成されました。晩年になり、彼の音楽はリヒャルト・シュトラウスの聖地とも言えるザルツブルク音楽祭でようやく日の目を浴びることとなり、1953年12月16日にザルツブルク祝祭劇場で『ユディット』が選抜演奏の形で初演され、満場の拍手喝采を浴びました。その栄光を見届けた後、1954年2月5日に故郷のミラノで77年の生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:パヴァーヌ イ長調】
『パヴァーヌ イ長調(Pavane in la maggiore)』は、ニェッキが残したピアノ独奏のための小品です。正確な作曲年は詳らかにされていませんが、後年に彼の生涯を特集したテレビ番組や近年の録音プロジェクトを通じて、再び日の目を浴びるようになった貴重な器楽作品です。
「パヴァーヌ」とは、16世紀のヨーロッパ宮廷で流行した、ゆったりとした2拍子の荘重な舞曲の形式を指します。ニェッキは、得意としたポスト・ワーグナー的な濃厚な半音階的ハーモニーとは一線を画し、この小品において古風で気品溢れるノーブルな世界観を構築しています。
【聴きどころ】
1)古風でノーブルな美しさ
16世紀の宮廷舞踊を思わせる、シンプルで均整の取れたリズムの上に、哀愁を帯びた上品な旋律が流れます。懐かしさと静けさを湛えた「古き良き時代」の薫りが最大の魅力です。
2)ピアノが奏でる繊細な色彩感
華美な装飾を削ぎ落とした、美しく透き通るようなピアノのタッチが堪能できます。音が空間に消えていく静寂の美を感じられる構成になっています。
3)オペラ作曲家ならではのロマンティシズム
壮大なオペラを手掛けたニェッキだからこそ表現できる、ピアノ1台の簡潔な響きの中に隠されたドラマチックな抒情性と、イタリア直系の歌心がそっと息づいています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ニェッキ、ヴィットリオ:パヴァーヌ イ長調
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