一日一曲(1896)メラーニ、ヤコポ:歌劇「テベのエルコール」より第2幕第8場 Da torbido nembo

 本日は、没後350年(1676年8月18日没)を迎えらえたイタリアの作曲家、ヤコポ・メラーニさんの曲をご紹介します。

【ヤコポ・メラーニ:トスカーナの豊かな劇場文化を支え、初期コミック・オペラの礎を築いたオペラ作家】
 ヤコポ・メラーニ(Jacopo Melani)は、1623年7月6日にイタリアのトスカーナ地方にあるピストイアで生まれました。音楽家を多く輩出したメラーニ家の長男として生を受けた彼は、幼少期から音楽と歌唱の教育を受けました。1640年代には歌手としてパリの宮廷に招かれ、ルイージ・ロッシの歌劇『オルフェオ』の初演でジュピター(ゼウス)役を演じるなど、高い評価を得ています。また、この時期に聖職者(司祭)としての叙任も受けました。地元ピストイアのサン・ゼーノ大聖堂では1645年からオルガニスト、1657年からは楽長を務め、教会音楽家としてのキャリアを積みました。その一方で、フィレンツェのアカデミア(芸術協会)やメディチ家の後援を受け、劇音楽の分野で目覚ましい才能を発揮します。特に1657年、フィレンツェのペルゴラ劇場のこけら落とし公演として上演された『コローニョレの代官(ラ・タンチャ)』をはじめとする一連の喜劇的オペラ(オペラ・ブッファの先駆け)は大成功を収め、劇音楽作曲家としての地位を確固たるものにしました。メラーニ一族は音楽界だけでなく政治的・外交的にも波乱に満ちた逸話を持ち、弟のアット(Atto Melani)は優秀なキャストラート歌手でありながら外交官や「スパイ」として暗躍したことで有名です。ヤコポ自身もメディチ家の皇太子コジモ3世とマルグリット・ルイーズ・ドオルレアンの結婚祝賀オペラ『テベのエルコール(Ercole in Tebe)』を作曲するなど、貴族社会の華やかな慶事に深く関わりました。晩年までピストイアの大聖堂で音楽監督やオルガニストの職を務め、1676年8月18日に生誕地と同じピストイアにて53歳でその生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:歌劇『テベのエルコール』第2幕第8場より「暗い雲の合間から(Da torbido nembo)」】
   作曲年:1661年
   台本:ジョヴァンニ・アンドレア・モニリア(Giovanni Andrea Moniglia)
   初演場所:フィレンツェ・ペルゴラ劇場
    ※ NMLの表記では「第1幕」となっていますが、ブックレットより「第2幕第8場」が正しいと思われます。
 『テベのエルコール』は、1661年にメディチ家の婚礼を祝って制作された大規模な「フェスタ・テアトラーレ(祝典劇)」です。ギリシャ神話の英雄ヘラクレス(エルコール)を題材とし、豪華な舞台装置と躍動的な音楽で当時のフィレンツェ観客を魅了しました。 第2幕第8場で歌われる「暗い雲の合間から(Da torbido nembo)」は、登場人物アリステオ(Aristeo)によって歌われる超絶技巧的なアリアです。「暗雲に覆われた空でも星が美しく輝くように、拒絶や困難に直面しても私の愛の炎は揺るがない」という情熱と決意が、ダイナミックなバロック的表現でドラマチックに描かれています。

【聴きどころ】
1)嵐と情熱を対比させる華やかな「アジタート(激動)」スタイル
 「暗い雲(torbido nembo)」や「嵐」といった自然の威容と、胸に秘めた激しい情熱を重ね合わせた激しい音楽表現が魅力です。伴奏と歌唱が一体となって押し寄せるような音の波が、聴き手に強烈な印象を与えます。

2)コロラトゥーラによる超絶技巧の歌唱
 「愛の戦士」としての勇猛さや感情の高ぶりを示すため、音符が細かく跳躍・疾走するアジリティ(装飾的技巧)が盛り込まれています。歌手の高度な声楽技術と息遣いをダイレクトに堪能できるパートです。

3)メリハリの効いたバロック・オペラならではの旋律美
 感情を直線的にぶつけるRecitativo(語り)的な質感から、気品と叙情性をたたえたArioso(アリオソ)風の旋律へと鮮やかに展開します。17世紀中葉の中期バロックならではの、自由で表現力豊かなメロディラインが見事です。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
メラーニ、ヤコポ:歌劇「テベのエルコール」より第2幕第8場 Da torbido nembo

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