一日一曲(1766)マイナルディ、エンリコ:チェロ・ソナチネ

 本日は、没後50年(1976年4月10日没)を迎えらえたイタリアの作曲家兼チェリスト、エンリコ・マイナルディさんの曲をご紹介します。

【エンリコ・マイナルディ:イタリア近代チェロ界の扉を開き、高潔な精神を奏で続けた孤高の巨匠】
 エンリコ・マイナルディ(Enrico Mainardi)は、1897年5月19日にイタリアのミラノで産声をあげました。アマチュアのチェリストであった父親は、息子が2歳6ヶ月の時にクリスマスプレゼントとしてチェロを渡したのですが、チェロは2歳の子どもには大きすぎました。そこで父親はのこぎりでチェロを作り直して息子に渡した、というエピソードが残っています。5歳からはミラノ・スカラ座管弦楽団の首席チェロ奏者のマグリーニから手ほどきを受けることになったのですが、「こんな小さな子供とこんな大きい楽器でうまくゆくはずがない」と感じたマグリーニは、エンリコのチェロへの意欲を削ぐために、自らの弟子よりも厳しい練習を課ししました。ところが、その意図に反してエンリコはどんどんと上達、次第にマグリーニ自身も熱心に指導をするようになりました。じきに「神童」としてその名を馳せるようになり、わずか13歳でミラノ音楽院を卒業するという驚異的な才能を示します。この1910年という年は彼にとって運命的な年となりました。ベルリンで偉大な音楽家フェルッチョ・ブゾーニと出会い、その才能を認められたマイナルディは、ブゾーニから自作の譜面を贈られたのです。この出会いは、彼の音楽的・道徳的な指針として生涯にわたる深い影響を与えることとなりました。
 その後ベルリンに渡り、名チェリストのヒューゴ・ベッカーに師事して研鑽を積みます。彼の活動はイタリアとドイツという二つの文化圏をまたぐものでした。イタリアではサンタ・チェチーリア国立アカデミーで初代チェロ教授として後進の指導にあたり、ドイツではベルリンを中心にソリスト、室内楽奏者として比類なき地位を築きました。
 特に室内楽においては、ピアニストのエドウィン・フィッシャーやヴァイオリニストのゲオルク・クーレンカンプ(後のヴォルフガング・シュナイダーハン)と共に伝説的なピアノ・トリオを結成し、格調高く精神性の深い演奏で聴衆を魅了しました。また、ブゾーニの愛弟子であったピアニストのカルロ・ゼッキとは長年にわたる緊密なパートナーシップを築き、その芸術性を高めていきました。
 作曲家としても、自らの楽器であるチェロの可能性を追求し、伝統を尊重しながらも独自の知的な形式を再構築する作風を確立しました。教育者としては、ミクローシュ・ペレーニをはじめとする現代の巨匠たちを育て上げ、現代チェロ奏法の確立に多大な貢献を果たしました。
 「私は音楽に奉仕するという信念に、全人生を捧げてきたのであり、自分自身に人々の注目を集めるために、音楽を手段として使ったのではない」常に楽譜への誠実さと高貴な響きを追求し続けた巨匠は、そのように語られていました。
 1976年4月10日、活動の拠点の一つであったドイツのミュンヘンで、惜しまれつつ78年の輝かしい生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:チェロ・ソナチネ】
 長らく1941年作曲とされてきましたが、近年の研究資料に基づくと1939年に書き上げられた作品です。この曲は、マイナルディが深く敬愛したブゾーニと、親交の深かった作曲家ジャン・フランチェスコ・マリピエロの両者からの影響を受けつつ、彼自身の語法が確立された重要な一作です。伝統的な「ソナタ」の重厚な枠組みをあえて避け、簡潔で凝縮された「ソナチネ」という形式の中に、チェリストならではの楽器への深い理解が詰め込まれています。

【聴きどころ】
1)透徹したポリフォニーと抒情
 第1楽章「Moderato」の冒頭は、透明感あふれる多声的な導入で始まります。そこからチェロの高音域で歌われる抒情的なテーマは、曲全体を貫く重要な動機となっており、知性と感性の見事なバランスを味わえます。
2)高貴で瞑想的な「サラバンド」
 第2楽章「Tempo di Sarabanda」は、全3楽章の中で最も長く、作品の核心部です。スペインの古風な舞曲のリズムを用いながら、バッハの無伴奏チェロ組曲を彷彿とさせるような、荘厳で瞑想的な世界が広がります。
3)変幻自在な終楽章の表情
 第3楽章「Vivace ma non presto」では一転して、鋭いポリフォニーと、どこか奇妙でユーモラスな身振りが交錯します。前の楽章までの静謐な雰囲気から鮮やかに脱皮し、チェロの多彩な表現力を楽しむことができます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
マイナルディ、エンリコ:チェロ・ソナチネ

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