一日一曲(1856)ハーディング、ジェイムズ:ガリアード(ガイヤルド)

 本日は、没後400年(1626年1月没)を迎えられたイギリスの作曲家、ジェイムズ・ハーディングさんの曲をご紹介します。

【ジェイムズ・ハーディング:50年近くにわたり英国王室の宮廷フルート奏者を務め、高名なウィリアム・バードをも魅了したルネサンス期の才人】
 ジェイムズ・ハーディング(James Harding または Jeames Harden)は、1550年頃にイングランド(一説にはヨーロッパ大陸からの移住家系とも)で生まれたとされています。その生涯の大部分は、エリザベス1世からジェームズ1世の治世にかけての、イングランド宮廷における華々しい音楽活動に捧げられました。
 彼は1575年(一説には1581年)に、名誉ある「王室宮廷管楽器奏者(Musician in Ordinary on the flutes)」に任命され、フルート(当時は主に木製の横笛やリコーダーを指す)の演奏家として若くして頭角を現します。以降、1625年までの実に半世紀近くにわたり、激動のチューダー朝からスチュアート朝への転換期を、お抱えの最高峰ミュージシャンとして音楽で彩り続けました。当時のイングランド宮廷はヨーロッパ中から超一流の奏者が集まる最先端の音楽拠点であり、ハーディングはその中心人物の一人として、国から高い俸給を得るほどの名声を誇っていました。
 作曲家としての彼は決して多作ではなく、現在に伝わる作品はごくわずかです。しかし、彼が残した洗練されたダンス・ムーブメントやファンタジアは、同時代の偉大な巨匠たちから一目置かれていました。プライベートでは結婚して子供を授かり、彼の音楽的才能は、後に同じく宮廷音楽家となった息子のエドワードへと受け継がれていきます。晩年はロンドンで穏やかに過ごし、長年仕えた宮廷を退職した翌年の1626年1月、同地で多くの人々に惜しまれながらその生涯を閉じました。彼が宮廷に残した足跡は、イギリス・ルネサンス音楽の黄金期を支えた重要な柱として、今も歴史に刻まれています。

【本日のご紹介曲:ガリアード(ガイヤルドとも表記されます)(W. バード編)】
 ガリアード(Galliard)は、16世紀のヨーロッパで大流行した快活な3拍子の跳躍舞曲です。ハーディングが1590年頃までに作曲したとされるこの瑞々しい旋律に目を留めたのが、当時のイングランド音楽界の最高峰であり、「英国音楽の父」と称されるウィリアム・バード(ca. 1540–1623)でした。
 バードは1590年代から1600年前後にかけて、このハーディングの原曲を鍵盤楽器(ヴァージナルやチェンバロ)のための独奏曲へと見事に編曲(鍵盤用書法への展開と変奏)しました。この作品は、当時のイングランド鍵盤音楽の最大の宝庫である手稿譜集『フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック(The Fitzwilliam Virginal Book)』(第122曲)に収められたことで、後世へと語り継がれることになります。時にジョン・ダウランドの有名な「ラクリメ(涙のパヴァーヌ)」とセットで演奏されることもある、気品と躍動感を兼ね備えた珠玉のルネサンス・ピースです。

【聴きどころ】
1)宮廷の情景が浮かぶ鮮やかなステップ感
 ガリアード特有の「5歩のステップ(シンク・パス)」を想起させる、軽快で弾むような3拍子のリズムが全編を貫きます。貴族たちが華麗にステップを踏み、跳躍する宮廷舞踏会の華やかな空気感が、鍵盤の打鍵を通して生き生きと伝わってきます。
2)ウィリアム・バードによる天才的な変奏マジック
 ハーディングの書いた美しい原曲のメロディが、バードの手によって細かく華麗な音型(ディミニュージョン)へと分解・装飾されていきます。フレーズが繰り返されるたびに、まるでレース編みのように音が細かく、そしてドラマチックに増殖していく対位法的な美しさは圧巻です。
3)哀愁と歓喜が交錯する音のドラマ
 快活なダンス・ミュージックでありながら、どこかイングランド特有の憂いを帯びた甘美な旋律が顔を覗かせます。明るい躍動感の中にふと混ざり込む切ない響きの移り変わりが、楽曲に深い奥行きを与えています。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ハーディング、ジェイムズ:ガリアード(ガイヤルド)

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