一日一曲(1847)レスゲン=シャンピオン、マルゲリーテ:牧歌

 本日は、没後50年(1976年6月30日没)を迎えらえたスイスの作曲家兼ピアニスト、マルゲリーテ・レスゲン=シャンピオンさんの曲をご紹介します。

【マルゲリーテ・レスゲン=シャンピオン:20世紀のパリで古楽復興と現代音楽の架け橋となり、チェンバロとピアノの新たな可能性を切り拓いたスイス出身の才媛】
 マルゲリーテ・レスゲン=シャンピオン(Marguerite Roesgen-Champion)は、1894年1月25日にスイスのジュネーヴで生を受けました。父親は宝石商でありながら優れたフルート奏者、母親は歌手という音楽に囲まれた家庭環境で育ち、幼少期から自然と音楽に親しみました。地元のジュネーヴ音楽院へと進むと、後に世界的名声を博するエルネスト・ブロッホや、リトミックの創始者として有名なエミール・ジャック=ダルクローズに作曲を学び、名ピアニストのマリー・パンテスに師事して1913年に優秀な成績で卒業しました。
 スイスで10年間ほど教鞭を執った後、1926年に彼女は芸術の都フランスのパリへと拠点を移します。当時はまだ女性作曲家への偏見が残っていた時代であり、彼女は「ジャン・ドリス(Jean Delysse)」という男性の筆名を使って作品を発表することもありました。しかし、その卓越した才能はすぐに認められ、管弦楽曲、室内楽、合唱曲など多岐にわたるジャンルで国際的な評価を確立していきます。また、彼女は優れた鍵盤楽器奏者でもありました。モーツァルトやハイドンのピアノ協奏曲の熱心な紹介者として活躍する一方で、当時はまだ顧みられていなかったチェンバロの復興(古楽復興運動)に深く貢献し、バロック音楽の魅力を1930年代の聴衆に広く伝えました。
 1940年には、パリ音楽院の優秀な学生たちに演奏の機会を与えるためのコンサートシリーズ「フランス組曲」を創設するなど、次世代の育成や同時代の音楽家たちを支援する活動にも情熱を注ぎました。最晩年まで音楽への情熱を燃やし続けた彼女は、1976年6月30日、フランス南部の街イエール(Hyères)にて82歳でその生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:『Chant pastoral(牧歌)』】
 『Chant pastoral(牧歌)』は、レスゲン=シャンピオンが遺した、ピアノ独奏(ソロ)のための情緒豊かな小品です。彼女のピアノ曲集『Bucoliques(田園詩)』に収められている作品の一つとしても知られています。
 自身が優れたピアニストであり、鍵盤楽器の響きの可能性を知り尽くしていたからこそ、一台のピアノから非常に色彩豊かな情景を引き出すことに成功しています。20世紀前半の近代フランス音楽らしい洗練されたお洒落な和声感(コード進行)の中に、どこか懐かしく胸に染み入るような美しい「歌(Chant)」が息づいており、ピアノの美しい響きに初めて触れる方でもすんなりと耳に馴染む親しみやすさを持っています。

【聴きどころ】
1)一管の笛を思わせる「素朴で切ない旋律」
 曲の始まりは、まるでヨーロッパの穏やかな田園風景の中で、羊飼いが吹く一管の笛のように、シンプルで澄んだメロディがピアノの美しい高音域で演奏されます。無駄な音をそぎ落としたからこそ際立つ、純朴でどこか切ない旋律が、聴き手の心を一瞬で引き込みます。
2)近代フランス音楽特有の「お洒落な和声の陰影」
 素朴なメロディの背景で、ピアノの左手や内声が紡ぎ出す和音には、ドビュッシーやラヴェルの系譜を感じさせる繊細で美しい響きが散りばめられています。この和声の移り変わりによって、のどかな風景の中に光と影のグラデーションのような深いニュアンスが生まれています。
3)一台のピアノが描き出す「自然の息吹とドラマ」
 短い演奏時間でありながら、静かな語り口からふっと感情が高まるようなドラマチックな響きへと、ダイナミクス(音の強弱)が自然に変化していきます。まるで田園を吹き抜ける風のそよぎや、雲の間から差し込む太陽の光の移り変わりを耳で感じ取れるような、豊かな表現力が魅力です。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
レスゲン=シャンピオン、マルゲリーテ:牧歌

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