一日一曲(1862)ランバート、ジョン:トレッド・ソフトリー

 本日は、生誕100年(1926年7月15日生)を迎えらえたイギリスの作曲家、ジョン・ランバートさんの曲をご紹介します。

【ジョン・ランバート:強烈な前衛精神を宿しながらも、英国現代音楽界の未来を担う巨匠たちを育み続けた「静かなる名教師」】
 ジョン・ランバート(John Arthur Neil Lambert)は1926年7月15日、イングランドのバークシャー州メイデンヘッドに生まれました。音楽家としての基礎を築くため、ロンドンにある王立音楽アカデミー(RAM)と王立音楽大学(RCM)の双方で学びます。さらに1950年から1953年にかけてはフランス・パリへ渡り、20世紀の高名な女性音楽教師であるナディア・ブーランジェに師事して、厳格かつ緻密な伝統的作曲技法を叩き込まれました。

帰国後の1958年から1962年までは、ロンドンの高名な劇場「オールド・ヴィック」の音楽監督を務め、舞台音楽の分野で劇的な構成力を磨きます。そして1963年、母校である王立音楽大学の作曲科教授に就任しました。 ランバートの真骨頂は、ここからの教育活動にあります。彼は学生たちに自身が受けたような厳格な基礎を教え込む一方で、1970年には大学内に「実験音楽クラス(Experimental Music Group)」を立ち上げました。これは、ライブ・エレクトロニクス(電子音響)や演劇、ダンス、映像などを融合させ、未だ見ぬ音響を探求する極めて自由なゼミナールでした。彼は「私の若い頃の英国音楽界は、新しいものに対して閉鎖的だった。学生たちに同じ苦しみを味わわせたくない」と語り、常に最新のトレンドに耳を傾けていました。

この自由で温和な指導からは、オリヴァー・ナッセンやマーク=アントニー・タネジ、ジュリアン・アンダーソンなど、その後の英国現代音楽界を牽引する多様なスター作曲家たちが次々と巣立っていきました。後進の育成に半生を捧げ、1990年に教職を退いた後はイースト・サセックス州のブライトンで暮らし、1995年3月7日、肝臓がんのため68歳でその生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:トレッド・ソフトリー(1983年作曲)】
 伝統的なクラフトマンシップと実験精神を両立させたランバートが、1983年に書き上げたのがギター四重奏のための『トレッド・ソフトリー(Tread Softly)』です。

タイトルは「そっと歩いて」「足音を忍ばせて」という意味を持っています。現代音楽と聞くと、激しい不協和音や楽器を叩くような過激な奏法をイメージされる方もいるかもしれませんが、この作品はその対極にあります。4台のクラシックギターという極めて親密でアコースティックな編成を活かし、静寂の中から繊細な音の粒子が湧き上がるような、極めて美しく内省的な世界が描かれています。音と音の間に漂う「余白」が美しく、まるで繊細な水墨画や、静かな庭園の木漏れ日を眺めているかのような心地よさを感じさせてくれる作品です。

【聴きどころ】
1)4台のギターが織りなす「音のタペストリー」
 1台のギターでは表現できない、4台ならではの空間的な響きの重なりが魅力です。あるギターが静かに奏でた残響のなかに、別のギターがそっと音を重ねていくことで、まるで1本の巨大なハープが空間全体で鳴っているかのような、立体的で美しい音響空間が構築されていきます。

2)「静寂」のなかに宿る、繊細な美しさ
 この曲において、音が鳴っていない「間(ま)」や「静寂」は、音符と同じくらい重要な役割を持っています。静けさに耳を澄ませることで、ギターの弦に指が触れる微細なニュアンスや、音が消え入る瞬間の美しさが際立ち、聴き手を深い没入感へと誘います。

3)優しく心に染み入る「音の引き算」
 複雑なメロディラインで圧倒するのではなく、音の数を極限まで絞り込む「引き算の美学」が徹底されています。過度な刺激がなく、耳にすっと馴染む響きで構成されているため、現代の作品を初めて聴く方でも肩の力を抜いてその音響に身を委ねることができます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ランバート、ジョン:トレッド・ソフトリー

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