一日一曲(1936)ゼムツォフ、エフゲニー:古い様式のメロディ
本日は、没後10年(2016年没)を迎えられたロシアの作曲家、エフゲニー・ゼムツォフさんの曲をご紹介します。
【エフゲニー・ゼムツォフ:傑出したヴィオラ奏者一族の「祖」であり、チャイコフスキーやプロコフィエフの精神から後年のタンゴへの傾倒まで、多彩な創作の軌跡を遺した知られざるロシアの才人】
エフゲニー・ゼムツォフは、1940年8月27日、ロシアの古い都市タンボフに近いラスカゾヴォの労働者階級の家庭に生まれました。貧しい環境の中でありながらも音楽の才能を開花させ、やがてモスクワのチャイコフスキー音楽院へ進学し、音楽家としての道を歩み始めます。モスクワ音楽院での学生時代は、彼の人生において最も運命的な出会いをもたらすものでした。若く才能溢れる作曲家であったエフゲニーは、同音楽院で学んでいた美しく若きヴィオラ奏者、リュドミラ・レヴィンソンと出会い、深い恋に落ちたのです。エフゲニーはリュドミラへの愛の告白として、ある美しいヴィオラのための楽曲を書き上げました。この作品は二人の結びつきを確固たるものとし、それから1年後の1978年、彼らの間には後に名ヴィオラ奏者となる息子、ミハイル・ゼムツォフが誕生しています。
息子のミハイルがまだ幼かった頃、父エフゲニーが作曲する姿をじっと見つめ、父を見習って鉛筆と紙を持ち、隣にちょこんと座っていたという心温まるエピソードが残されています。父の背中を見て育ったミハイルもやがてヴィオラ奏者および作曲家となり、ゼムツォフ家の音楽の才能は世代を超えて受け継がれていくことになります。
エフゲニーの作曲家としてのキャリアを振り返ると、初期の作品にはチャイコフスキーやプロコフィエフの影響を強く受けたヴァイオリン曲や、1962年に書かれたバルトークを思わせる弦楽四重奏曲などがありました。その後も、機知に富んだピアノのミニアチュールや、謎めいた儀式のような歌曲など、独自の創作活動を展開します。晩年になると彼はタンゴの魅力に開眼し、アストル・ピアソラの楽曲をエレガントな弦楽四重奏や五重奏へ編曲する作業を熱心に手がけました。彼の生涯は、彼自身の作曲作品よりもむしろ、彼が礎を築いた傑出した「ヴィオラ奏者一族」の長として広く認知されることとなりました。妻リュドミラ、息子ミハイル、そして孫娘のダナ・ゼムツォフと続くこの輝かしい音楽家一族の原点には、常にエフゲニーの存在がありました。2016年、ドイツのハンブルクにてその76年の生涯を閉じましたが、亡くなるわずか1ヶ月前まで編曲作業を行うなど、生涯にわたって音楽への情熱を燃やし続けた尊い人生でした。
【本日のご紹介曲:古い様式のメロディ(Melodie im alten Stil)】
エフゲニー・ゼムツォフが自身の妻となるヴィオラ奏者リュドミラへの「愛の告白」として作曲した、非常にロマンティックな成り立ちを持つ楽曲です。息子のミハイルが1978年に誕生する1年前に書かれたとされており、おおよそ1977年の作品であると推測されます。
ヴィオラという楽器の持つ深く温かな音色を最大限に活かし、どこか懐かしさを覚えるような抒情的な旋律が朗々と歌い上げられます。複雑な音楽理論などを意識することなく、ただ音の波に身を委ねるだけで、作曲者が当時抱いていた純粋な愛情や優しい眼差しがまっすぐに心へと届く、非常に親しみやすく美しい小品です。
【聴きどころ】
1)愛の告白に満ちた朗らかな旋律
将来の妻となる女性への純粋な想いがそのまま音になったかのように、ヴィオラがたっぷりと歌い上げる優しくも情熱を秘めた息の長いメロディが心に響きます。
2)ノスタルジックで温かみのある和声
タイトルにある「古い様式」の通り、古き良きロマン派の伝統を思わせる、どこか懐かしく包み込むような美しい和声の響きが特徴です。
3)親密な対話を交わすアンサンブル
主旋律を奏でるヴィオラとそれを支えるピアノが、まるで恋人同士が寄り添い親密に語り合っているかのように自然に溶け合う、絶妙な掛け合いが楽しめます。
本日は、息子さんの演奏と息子さんの娘さん(孫娘)の2種の演奏をお楽しみください!
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ゼムツォフ、エフゲニー:古い様式のメロディ(息子の演奏)
ゼムツォフ、エフゲニー:古い様式のメロディ(息子の娘の演奏)
ゼムツォフ、エフゲニー:古い様式のメロディ(amazon music)
|
|
