一日一曲(1976)バンコール、アヨ:エグン変奏曲ト長調

 本日は、没後50年(1976年11月6日没)を迎えられたナイジェリアの作曲家、アヨ・バンコールさんの曲をご紹介します。

【アヨ・バンコール:アフリカの伝統的な旋律とリズムを西洋クラシックの形式や現代的な和声と融合させ、独自の音楽世界を切り拓いた、ナイジェリア近代音楽の先駆者】
 アヨ・バンコール(Ayo Bankole)は、1935年5月17日、ナイジェリア中部のジョスに生まれました。父テオフィラス・アビオドゥン・バンコールは教会のオルガニスト兼聖歌隊指揮者、母も音楽教師という家庭に育ちました。1941年にはラゴスの祖父のもとへ移り、ピアノやハルモニウムの手ほどきを受けました。少年時代にはラゴスの大聖堂聖歌隊に参加し、ナイジェリアの教会音楽を代表するトーマス・エクンダヨ・フィリップスからオルガンや音楽理論を学びました。
 1954年にナイジェリア放送協会に就職すると、同国を代表する作曲家フェラ・ソワンデとも交流し、オルガンの指導を受けました。1957年、政府奨学金を得てイギリスへ渡り、ロンドンのギルドホール音楽演劇学校でピアノ、オルガン、作曲を学びました。この時期から、西洋の伝統的な作曲技法と20世紀の新しい音楽語法を取り入れ、独自の作品を生み出していきます。
 その後、ケンブリッジ大学クレア・カレッジに進み、1964年に音楽の学位を取得。同年には英国王立オルガニスト協会のフェロー資格(FRCO)を取得し、フェラ・ソワンデに続くナイジェリア人として史上2人目の快挙を成し遂げました。さらにアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校で民族音楽学を研究し、アフリカの伝統音楽への理解を深めました。
 1966年に帰国すると、ナイジェリア放送協会で音楽制作に携わり、1969年からはラゴス大学で教鞭を執りました。教育や合唱指導、民族音楽研究にも精力的に取り組み、ピアノ曲、オルガン曲、歌曲、合唱曲など幅広い作品を残しました。代表作には《ピアノ・ソナタ第2番「受難」》《ナイジェリア組曲》《3つのトッカータ》などがあります。
 しかし、1976年11月6日、ラゴスの自宅で妻とともに殺害され、41歳の若さで生涯を閉じました。その早すぎる死は大きな損失となりましたが、アフリカ固有の音楽文化を西洋クラシックと結びつけた功績は、今日のナイジェリア芸術音楽にも受け継がれています。

【本日のご紹介曲:エグン変奏曲 ト長調(Egun Variations in G major)】
 本曲は、ナイジェリアのエグンの伝統歌《トナ・ノウェ(Tona Nowe)》を主題とする、ピアノ独奏のための変奏曲です。アフリカの民族音楽に由来する旋律を、西洋クラシックの伝統的な変奏曲形式とト長調の和声構造の中で展開した、バンコールの作曲家としての個性がよく表れた作品です。
 曲は、穏やかで素朴な民謡の旋律から始まります。開放的な音程による繰り返しの伴奏に支えられた主題は、どこか讃美歌を思わせる落ち着いた雰囲気を持っています。しかし、変奏が進むにつれて音楽は次第に表情を変え、流れるような分散和音や軽快なリズム、装飾的な旋律が現れます。
 さらに後半では、半音階的な動きや短調の響き、不協和音が加わり、当初の穏やかな旋律からは想像できないほど緊張感のある音楽へと発展します。技巧的なパッセージと鋭い和音によって大きな頂点を築いたのち、冒頭の主題が再び姿を現します。ただし、その響きは最初とは異なり、短調の陰影を帯びた、どこか神秘的で余韻の深い結末となっています。
 アフリカの伝統的な歌が、西洋の変奏技法によって多彩な表情を獲得していく本曲は、二つの音楽文化を融合させたバンコールの創作理念を凝縮した作品といえるでしょう。

【聴きどころ】
1)冒頭の素朴で美しい民謡の主題
 穏やかな旋律と繰り返される伴奏が生み出す、温かく親しみやすい響きに注目です。アフリカの伝統的な歌が、西洋のピアノ音楽として自然に息づいています。

2)変奏ごとに変貌するリズムと和声
 流麗な分散和音、軽快な動き、叙情的な旋律、そして次第に強まる半音階的な響き。主題の面影を残しながら音楽が次々と新しい表情を見せる、変奏曲ならではの面白さを楽しめます。

3)劇的な頂点と、陰影を帯びた主題の回帰
 後半では不協和音と技巧的なパッセージが緊張感を高め、鋭い和音によって劇的な頂点を迎えます。その後、冒頭の旋律が短調の響きをまとって戻ってくる結末は、特に印象的です。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
バンコール、アヨ:エグン変奏曲ト長調

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