一日一曲(1974)ブランド、エドワード:スケッチ集 7

 本日は、生誕100年(1926年7月25日生)を迎えられたアメリカの作曲家、エドワード・ブランドさんの曲をご紹介します。

【エドワード・ブランド:ジャズの躍動感と現代音楽の緻密な構成技法、アフリカのリズムを融合させ、独自の「アーバン・クラシカル・ファンク」を切り拓いた、20世紀アメリカの革新的作曲家】
 エドワード・オズマンド・ブランド(Edward Osmund Bland)は、1926年7月25日、アメリカのシカゴに生まれました。父は郵便局員であると同時に独学の文学評論家でもあり、詩人ラングストン・ヒューズや作家ラルフ・エリスンらと交流する知識人でした。こうした文化的に豊かな環境で育ったブランドは、若い頃からクラリネットを演奏し、ジャズ音楽家として活動を始めました。
 しかし、ストラヴィンスキーの《春の祭典》を聴いたことが大きな転機となります。管弦楽の持つ豊かな表現力に衝撃を受け、クラシック音楽の作曲技法を本格的に学ぶようになりました。作曲家ジョン・J・ベッカーに個人指導を受けたほか、第二次世界大戦中の軍務を経て、シカゴ大学やアメリカ音楽院で学びました。この時期にシェーンベルクの十二音技法などにも接し、独自の音楽語法を模索していきました。
 1959年には、ジャズの歴史とアフリカ系アメリカ人の文化的経験を論じたドキュメンタリー映画『ジャズの叫び』(The Cry of Jazz)を制作しました。この映画にはサン・ラの音楽も使用され、人種問題を鋭く問いかける内容が大きな議論を呼びました。後年、その歴史的重要性が再評価され、2010年にはアメリカ議会図書館の国立フィルム登録簿に選定されています。
 1960年代以降はニューヨークを拠点に、作曲家、編曲家、音楽プロデューサーとして幅広く活動しました。ジャズやポピュラー音楽の録音制作に携わる一方、1979年には代表作《室内管弦楽のための小品》を発表しました。1984年にはロサンゼルスへ移り、映画『ソルジャー・ストーリー』の管弦楽編曲や、テレビ映画『黒い一粒のプライド』(A Raisin in the Sun)の音楽制作などにも携わりました。
 ブランドは、西洋の現代音楽、ジャズ、西アフリカの打楽器音楽などを融合させた独自の作風を追求し、これを「アーバン・クラシカル・ファンク」と呼びました。その音楽は後のヒップホップ・アーティストにも注目され、作品がサンプリングされるなど、ジャンルを越えた影響を残しました。
 晩年はヴァージニア州スミスフィールドで創作活動を続け、2013年3月14日、86歳で亡くなりました。

【本日のご紹介曲:スケッチ集第7番(Sketches Set Seven、1987年)】
 本曲は、1987年に作曲されたピアノ独奏のための作品で、5つの部分(セグメント)から構成され、演奏時間は約12分です。同年、ニューヨークのマーキン・ホールで行われたピアニスト、アルシア・ウェイツ(Althea Waites)のニューヨーク・デビュー・リサイタルにおいて世界初演されました。
 ブランドが追求した「アーバン・クラシカル・ファンク」の特徴が表れた作品で、現代音楽の緻密な構成技法と、ジャズやファンクに通じる自由なリズム感が融合しています。
 作品の大きな特徴は、冒頭の中低音域に提示される長い旋律が、全体の音楽的な素材となっていることです。この旋律から複数の主題が生み出され、音の並びやリズム、音型を変えながら、5つのセグメントを通じて多彩に展開されます。
 5つの部分はそれぞれ異なる表情を持ちながらも、共通の主題を繰り返し変形させる「循環的な主題処理」によって統一されています。テンポの変化、主題の変形、音楽のテクスチュア(音の重なり方や響きの質感)の変化が、作品全体に豊かな対比を生み出しています。
 十二音技法を思わせる音の組織的な扱いも見られますが、ブランドは厳格な規則に縛られることなく、素材を柔軟に発展させています。鋭い不協和音や複雑なリズムの中にも、ジャズ音楽家として出発した彼ならではの自由な感覚が息づいています。
 興味深いのは、ブランド自身が本曲を、形式的には比較的軽い性格の作品、いわば「ディヴェルティメント(嬉遊曲)」と捉えていたことです。ただし、音楽の表情まで単純に軽快というわけではなく、緊張感のある響きや複雑な構成の中に、遊び心と変化の面白さが織り込まれています。「スケッチ集」という題名にも、こうした自由な発想が表れているのでしょう。

【聴きどころ】
1)冒頭の中低音域に現れる旋律と、その変容
 曲の冒頭に提示される長い旋律に注目です。この旋律から生まれた主題が、異なる音型やリズムへと姿を変えながら5つの部分を結びつけていく、巧みな構成を楽しめます。

2)テンポとリズム、響きの変化が生み出す多彩な表情
 テンポの変化や予想外のアクセント、緊張感のある和声、音の重なり方の変化が織りなす独特の世界が魅力です。現代音楽の緻密さとジャズ由来の躍動感が共存しています。

3)5つのセグメントを貫く統一感と、嬉遊曲的な遊び心
 短い5つの部分は、それぞれ異なる表情を見せながら、共通の音楽素材によって結ばれています。ブランド自身が「ディヴェルティメント」と捉えた作品の自由な発想と、複雑な構成の中に潜む遊び心を味わってみてください。

 本日は、初演者アルシア・ウェイツの演奏でどうぞ!

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ブランド、エドワード:スケッチ集 7

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