一日一曲(1968)ギボンズ、エリス

 ギボンズ家の作曲家を紹介する連載も、本日で4日目、最終日となります。本日は昨日ご紹介したエドワード・ギボンズさんの弟で、同じくイギリスの作曲家、エリス・ギボンズさんをご紹介します。

【エリス・ギボンズ:わずか2曲のマドリガルにその名を残し、エリザベス朝の華やかな宮廷文化と英国多声音楽の魅力を今に伝える、ギボンズ家の知られざる作曲家】
 エリス・ギボンズ(Ellis Gibbons)は、1573年、イングランドのケンブリッジに生まれ、11月30日に洗礼を受けました。父ウィリアムはケンブリッジの市付き楽師たちを率いる音楽家で、兄エドワードと弟オーランドも作曲家として活動するなど、音楽に恵まれた家庭で育ちました。
 しかし、エリスの幼少期や音楽教育については詳しい記録が残っておらず、どのように作曲技術を身につけたのかは分かっていません。兄エドワードや弟オーランドが聖歌隊や宮廷で活躍したのに対し、エリスの職歴も明らかになっていません。
 かつてはブリストル大聖堂やソールズベリー大聖堂のオルガニストを務めたと伝えられていましたが、現在では、これらの記述は誤りと考えられています。1598年から1600年にかけてのケンブリッジの税務記録にその名前が見られ、ロンドンでも不動産を借りていたことが分かっています。
 作曲家としてエリスの名前が歴史に刻まれたのは、1601年の年記を持つマドリガル曲集『オリアーナの勝利』(The Triumphs of Oriana)への参加によってでした。
 この曲集は、作曲家トマス・モーリーが編集したもので、英国を代表する作曲家たちによる25曲のマドリガルが収められています。「オリアーナ」は、伝統的にエリザベス1世を象徴する名前と解釈されており、各作品には、女王への祝福を表す「美しきオリアーナよ、永遠なれ」という趣旨の歌詞が盛り込まれています。
 注目すべきことに、この曲集に2曲を提供したのは、編集者のモーリーとエリスの2人だけでした。エリスは『美しきオリアーナよ、永遠なれ』と『彼女の馬車を取り囲んで』を寄せ、英国マドリガルの歴史にその名を残しました。
 2曲はいずれも複数の声部を組み合わせた多声音楽ですが、特に後者は、旋律の動きや声部の掛け合いに工夫が見られ、より変化に富んだ作品となっています。一方、エリスの作品が兄エドワードや弟オーランドによって作曲されたのではないかという説もありますが、これを裏付ける確実な証拠はありません。
 私生活ではジョーン・ダイアーという女性と結婚していたことが分かっています。しかし、1603年には母メアリーが亡くなり、その直後、エリス自身も29歳の若さで世を去りました。
 エリスは1603年5月14日に遺言書を作成し、わずか4日後の5月18日には兄エドワードによってその遺言が検認されています。ロンドンのセント・ポール大聖堂近くで亡くなったと考えられていますが、詳しい死因は分かっていません。1603年にはロンドンでペストが大流行しましたが、エリスの死との関係は明らかになっていません。
 エリスの現存する作品は、現在のところ『オリアーナの勝利』に収められた2曲だけです。兄エドワードのように後進を育てたり、弟オーランドのように数多くの名曲を残したりすることはありませんでしたが、その短い生涯に残されたマドリガルは、エリザベス朝の華やかな音楽文化を伝える貴重な遺産となっています。

【現存する代表作品2曲】
1)『美しきオリアーナよ、永遠なれ』(Long live fair Oriana、1601年)
 5声のマドリガル。『オリアーナの勝利』に収録された作品で、ニンフたちが女王オリアーナを森へと導き、羊飼いたちとともにその美しさと栄光を讃える様子を描いています。冒頭と結尾に同じ祝福の言葉を置く構成が特徴で、5つの声部が比較的まとまった動きを見せながら、明るく祝祭的な雰囲気を生み出しています。英国宮廷の華やかな音楽文化を伝える作品です。

2)『彼女の馬車を取り囲んで』(Round about her charret、1601年)
 6声のマドリガル。女王オリアーナを乗せた馬車の周囲に、ギリシャ・ローマ神話の神々やニンフたちが集まり、歌や楽器の音色で女王を讃える情景を描いています。酒神バッカスや竪琴の名手アンフィオンも登場する華やかな歌詞が特徴です。6つの声部が互いに呼応しながら展開し、1曲目よりも変化に富んだ音楽によって、神話の世界を生き生きと描き出しています。

(NMLシステム障害のため、代表作品を文章のみでご紹介します)

 ギボンズ家の4人の作曲家は、それぞれの生涯も作品も大きく異なります。その違いを楽しみながら一族の歴史をたどった4日間の連載、いかがでしたでしょうか?

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