一日一曲(1967)ギボンズ、エドワード
昨日はオーランド・ギボンズさんをご紹介しました。本日は、その兄で、同じくイギリスの作曲家、エドワード・ギボンズさんをご紹介します。ギボンズ家の作曲家を紹介する連載も、本日で3日目となります。
【エドワード・ギボンズ:弟オーランドや甥クリストファーの音楽的成長を支え、聖歌隊の指導を通して次世代の才能を育みながら、宗教音楽と器楽に作品を残した、英国ルネサンス音楽の知られざる功労者】
エドワード・ギボンズ(Edward Gibbons)は、1568年頃、イングランドのケンブリッジに生まれ、1568年3月21日に洗礼を受けました。父ウィリアムはケンブリッジの市付き楽師として活動しており、弟には作曲家のエリスとオーランドがいました。音楽に親しむ家庭環境の中で育ちましたが、幼少期の教育については詳しい記録が残っていません。
1592年頃からケンブリッジ大学キングズ・カレッジで聖歌隊の指導を担当し、1598年までその職を務めました。この間、弟オーランドも聖歌隊に加わり、兄の指導のもとで音楽を学びました。また、ケンブリッジ大学で音楽学士号を取得し、1592年にはオックスフォード大学でも同等の学位を認められています。
1598年にキングズ・カレッジを離れた後の数年間については不明な点が残っていますが、1607年までにはイングランド南西部のエクセターに移り、翌1608年にはエクセター大聖堂の聖歌隊の指導を任されました。1609年には、聖職者ではない立場ながら特別な許可を得て、大聖堂の聖歌隊付きの職に就きました。さらに1615年には、礼拝音楽の運営を補佐する副唱導者(サクセンター)に任じられました。
エクセターでは長年にわたって音楽教育に携わり、聖歌隊員への声楽や器楽の指導を続けました。その教え子の中には、後に英国バロック音楽の重要な作曲家となるマシュー・ロックも含まれています。
1625年に弟オーランドが急逝し、翌年にはその妻エリザベスも亡くなると、エドワードは遺された子どもたちを引き取りました。その中には、後に作曲家となるクリストファーもおり、叔父のもとで音楽の研鑽を積みました。こうしてエドワードは、ギボンズ家の音楽的伝統を次世代へ受け継ぐうえでも重要な役割を果たしました。
作曲家としては、英国国教会の礼拝で演奏されるアンセムや、オルガンのための前奏曲、ヴィオール合奏のための器楽曲などを残しました。現存する作品はわずかですが、独唱と合唱を組み合わせた宗教声楽曲には、言葉の意味を生かした豊かな表現が見られます。また、器楽作品には、英国ルネサンス音楽の特徴である対位法の技法に加え、ユーモラスな発想を取り入れたものもあります。
17世紀半ば、清教徒革命と内戦によって英国の教会音楽は大きな打撃を受けました。エドワードも議会派からの金銭要求を拒んだために住居を追われたと伝えられています。長年勤めたエクセター大聖堂も混乱に巻き込まれ、その音楽活動は衰退していきました。
エドワードは1650年7月以前、82歳前後で亡くなったと考えられていますが、正確な没年月日や埋葬場所は分かっていません。
弟オーランドのような華々しい名声を得ることはありませんでしたが、聖歌隊の育成と作曲活動を通して英国教会音楽の伝統を守り、次の時代の音楽家たちへと受け継いだ人物でした。
【代表作品5選】
1)『いかにその都は孤独に座していることか』(How hath the city sate solitary)
2人のアルト独唱、合唱、器楽伴奏のためのヴァース・アンセム。旧約聖書の『哀歌』第1章をもとにした作品で、疫病によって多くの人々が亡くなった悲しみと、神への祈りを表現しています。1603年のロンドンにおけるペストの大流行を背景として作曲された可能性があり、深い悲しみをたたえた声楽の響きが印象的です。
2)『時計は何時を打つのか』(What Strikes the Clocke?)
3声のヴィオール合奏のための器楽作品。時計が時を告げる様子を音楽で表現した、独創的でユーモラスな作品です。中声部では、同じ高さの音が1回、2回、3回と次第に増え、最後には12回繰り返されます。時計の鐘の音を模した仕掛けを通して、作曲者の遊び心と巧みな構成力を楽しむことができます。
3)『目覚めて立ち上がれ』(Awake and arise)
3声のヴァース・アンセム。現存する写本では歌詞の大部分が失われており、冒頭のわずかな言葉しか確認できません。しかし、音楽には生き生きとした動きがあり、3つの声部が互いに呼応しながら展開していきます。宗教声楽曲におけるエドワードの軽快で活動的な表現を伝える作品です。
4)『オルガンのための前奏曲 ニ短調』(Prelude in D minor)
オルガンのための短い前奏曲。17世紀初頭の英国では、礼拝のアンセムに先立ってオルガンの前奏曲が演奏される習慣があり、この作品もそのために書かれたと考えられています。簡潔で落ち着いた音楽の中に、英国教会の厳かな雰囲気と鍵盤音楽の伝統が感じられます。
5)『イン・ノミネ』(In Nomine)
5声のヴィオール合奏のための器楽作品。『イン・ノミネ』は、16世紀の英国で広まった器楽形式で、一定の旋律を基礎に複数の声部が対位法的に絡み合いながら展開します。エドワードの作品もこの伝統に従い、各声部が独立した旋律を奏でながら、全体として落ち着いた調和を生み出しています。英国ルネサンス期の器楽合奏の魅力を伝える作品です。
(NMLシステム障害のため、代表作品を文章のみでご紹介します)
