一日一曲(1963)ニーマン、ワルター:組曲「日本にて」

 本日は、生誕150年(1876年10月10日生)を迎えられたドイツの作曲家、ワルター・ニーマンさんの曲をご紹介します。

【ワルター・ニーマン:シューマン、ブラームスの伝統を礎に、印象主義の色彩と異国への憧れを小さなピアノ曲へ凝縮した、20世紀ドイツの「音の風景画家」】
 ワルター・ルドルフ・ニーマン(Walter Rudolph Niemann)は、1876年10月10日、ドイツのハンブルクに生まれました。父ルドルフ・ニーマンはピアニスト兼作曲家で、ニーマンは8歳のころ父からピアノを学び始めました。その後エンゲルベルト・フンパーディンクに師事し、1898年からライプツィヒ音楽院でカール・ライネッケ、アルフレート・ライゼナウアーらに学びました。同時にライプツィヒ大学ではフーゴー・リーマンらのもとで音楽学を修め、1901年、中世の定量記譜法に関する研究によって博士号を取得しています。
 若いころのニーマンは、作曲家以上に音楽学者、評論家として存在感を示しました。1904年から1906年まで『新音楽時報(Neue Zeitschrift für Musik)』の編集に携わり、1907年から1917年まではライプツィヒの新聞『Leipziger Neueste Nachrichten』で音楽評論を担当しました。また、北欧音楽やシベリウス、ブラームス、ピアノ音楽などについて数多くの著作を残しています。1917年以降は、次第に作曲とピアノ演奏へ活動の重心を移していきました。
 作曲家としてのニーマンは、シューマンやブラームスのロマン派的伝統を受け継ぎながら、フランス印象主義や異国趣味を取り入れた、多数のピアノ小品で知られています。とりわけ、情景や人物、土地などを題名に掲げた小さな性格的小品を組曲としてまとめることを得意とし、ピアノをキャンバスにして色彩豊かな「音の絵」を描きました。1953年6月17日、長く活動の拠点としたライプツィヒで76歳の生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:組曲《日本にて》Op.89】
 本曲は1923年に作曲・出版された、5曲からなる作品です。「茶屋」「海辺の夕暮れ」「桜の祭り」「聖なる山(富士山)」「芸者の踊り」と、日本を象徴する五つの情景が並びます。楽譜ではそれぞれト長調、ト短調、イ長調、ヘ短調、ニ短調に置かれています。
 第1曲《茶屋(Das Teehaus)》は穏やかでくつろいだ雰囲気、第2曲《海辺の夕暮れ(Abenddämmerung am Meer)》は持続的で哀愁を帯びた音楽、第3曲《桜の祭り(Das Kirschblütenfest)》は小さな行進曲風の軽快な曲です。そこから第4曲《聖なる山(富士山)(Der heilige Berg [Fudsiyama])》ではテンポを落とし、荘厳で神秘的な世界へ。そして最後の《芸者の踊り(Tanz der Geisha)》が優美で軽やかな舞曲として組曲を締めくくります。
 ただし、この作品の最大の面白さは、ニーマンが実際の日本音楽を再現しようとしているわけではないことです。彼自身、日本文化に強い関心を持ち、自宅には日本の皿などを数多く集めていましたが、《日本》では日本の民謡や固有の音階を直接引用することはせず、むしろフランス印象主義を思わせる柔らかな和声と響きを用いています。ニーマン自身の言葉によれば、そこに描かれているのは、いわば「ドイツの音詩人が夢に見た日本」。現実の日本というより、1920年代のヨーロッパ人の想像力を通して眺めた、幻想の日本なのです。

【聴きどころ】
1)五つの「日本の絵」を巡る小さな音楽旅行
 静かな《茶屋》から夕暮れ、華やかな桜の祭り、荘厳な富士山、そして芸者の踊りへと、5曲それぞれの性格が鮮やかに変化します。とりわけ第4曲《聖なる山》の「Lento solenne e misterioso(ゆっくりと、荘厳に、神秘的に)」という世界は、それまでの小景から一気に視界が開けるような、この組曲の大きな山場です。

2)日本音楽ではなく、印象主義の響きで描いた「日本」
 耳を澄ませたいのは、旋律そのものよりも、和音の移ろい、ピアノの余韻、きらめく音型が生み出す色彩です。日本固有の旋律や和声を引用するのではなく、フランス印象主義的な響きによって日本を描いています。浮世絵を西洋の画家が自分自身の絵画語法へ翻訳したジャポニスムと、どこか似た発想が感じられます。

3)「本当の日本」と「夢の中の日本」のずれを楽しむ
 作品全体の拍子の基調には、日本音楽では比較的珍しい3拍子系が用いられています。それでも「茶屋」「桜」「富士山」「芸者」という題名と響きが組み合わさると、不思議なほど「日本らしい」風景が立ち上がってきます。現在の私たちが聴くと、その微妙なずれ自体が興味深く、100年前のヨーロッパ人が日本をどのような憧れの眼差しで見ていたのかまで聞こえてくる作品です。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ニーマン、ワルター:組曲「日本にて」

ニーマン、ワルター:組曲「日本にて」(CD)

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