一日一曲(1828)フロイド、カーライル:ピアノソナタ

 本日は、生誕100年(1926年6月11日生)を迎えらえたアメリカの作曲家、カーライル・フロイドさんの曲をご紹介します。

【カーライル・フロイド:人間の普遍的なドラマを紡いだアメリカ・オペラの巨匠】
 カーライル・フロイドは1926年6月11日、アメリカのサウスカロライナ州ラッタに生まれました。メソジスト派の牧師の家庭で育った彼は、幼少期から南部特有の文化や宗教的な環境に親しんで育ちました。コンバース・カレッジでピアノを学び始めたフロイドは、恩師のエルンスト・ベーコンを追ってシラキュース大学へと移り、同大学で学士号と修士号を取得します。その後、1947年からはフロリダ州タラハシーにあるフロリダ州立大学のピアノ科の教員となり、数十年にわたり後進の指導にあたりました。
 彼の名を世界に轟かせたのが、1955年に同大学のステージで初演された歌劇『スザンナ』の歴史的大成功です。社会的に弱い立場にある人々への深い共感や人間ドラマを描くフロイドの手腕は高く評価され、一躍トップ作曲家の仲間入りを果たしました。1976年からはヒューストン大学の教授に就任し、ヒューストン・グランド・オペラ・スタジオを共同設立して若い声楽家の育成にも尽力しています。彼は『嵐が丘』や『二十日鼠と人間』など、女性や社会的弱者に寄り添った数々の優れたオペラや台本を遺しました。晩年はタラハシーに戻り、2021年3月4日に亡くなるまで、アメリカ音楽界の至宝、アメリカ・オペラの父として敬愛され続けました。

【本日のご紹介曲:「ピアノソナタ」(1957年作曲)】
 フロイドといえばオペラでの輝かしい業績が有名ですが、彼自身が優れたピアニストであったこともあり、ピアノという楽器は彼の人生で非常に重要な位置を占めていました。この『ピアノソナタ』は、代表作『スザンナ』の大成功の直後である1957年に作曲され、フロイドの恩師である高名なチェコ人ピアニスト、ルドルフ・フィルクスニーに捧げられました。
 オペラで培われた劇的な表現力や豊かな色彩感がピアノの鍵盤上で見事に開花しており、言葉のない器楽曲でありながら、まるで壮大な舞台ドラマを観ているかのような強いエモーションが全3楽章を通して生々しく伝わってくる傑作です。

【聴きどころ】
1)第1楽章:劇的な幕開けと「言葉のない対話」
 不穏な和音で始まるこの楽章は、付点リズムが刻む壮大な行進曲へと発展します。英雄的な響きの後に現れる美しい第2主題は、まるで荒涼とした大地にぽつんと響く「孤独な歌声」のようです。やがてその旋律に2つ目の歌声がカノン(追いかけっこ)の形で重なり、音楽的な調和と人間の共感が言葉を介さずに美しく表現されます。
2)第2楽章:サスペンス映画のような緊迫感と慟哭
 厳かなフーガ風の始まりと、中間部で執拗に繰り返される低音の伴奏(オスティナート)が鮮やかな対比をなします。作曲者自身が「まるで殺人ミステリーのよう」と語った通り、全編に息詰まるような不穏な空気が漂います。楽章のクライマックスでは、ピアノの最高音と最低音で引き裂かれるような悲痛な叫びが響き渡り、聴き手の心を揺さぶります。
3)第3楽章:遊び心とダイナミックなフィナーレ
全曲に流れる独特なリズムのセンスが解放され、いたずらっぽく、躍動感あふれる音楽が展開します。冒頭の力強い導入部が、中間部ではまるで別世界のような静かで幻想的な音楽へと姿を変えて再登場する構成も見事です。最後はエネルギーを爆発させながら、力強く圧倒的なフィナーレを迎えます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で冒頭部分を試聴できます)
フロイド、カーライル:ピアノソナタ

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