一日一曲(1872)キシュテーテーニ、メリンダ:トロンボーンソナタ
本日は、生誕100年(1926年7月25日生)を迎えらえたハンガリーのオルガニスト兼作曲家、メリンダ・キシュテーテーニさんの曲をご紹介します。
【メリンダ・キシュテーテーニ:稀代の即興演奏家として名を馳せ、アンドラーシュ・シフら世界的巨匠を育て上げたハンガリー音楽界の偉大な母】
メリンダ・キシュテーテーニ(Melinda Kistétényi)は、1926年7月25日にハンガリーの首都ブダペストで生まれました。幼少期から類いまれな音楽の才能を発揮し、わずか6歳のときには生放送のラジオ番組でモーツァルト風の即興演奏を披露して周囲を驚かせたというエピソードが残されています。彼女はブダペストの聖マリア女学校で学んだ後、名門リスト・フェレンツ音楽院(ブダペスト音楽院)へと進みました。
音楽院を卒業した後は、1956年から1989年までの長きにわたり、同音楽院の音楽理論教授として教鞭を執り続けました。その指導歴は実に33年間に及び、彼女が育てた教え子には、世界的なピアニストであるアンドラーシュ・シフや、ゾルターン・コチシュ、指揮者のイヴァン・フィッシャーなど、現代のクラシック音楽界を牽引する巨匠たちが名を連ねています。教え子たちにとって彼女は単なる教師ではなく、「音楽の母」として生涯慕われる存在でした。
また、彼女は優れた作曲家であると同時に、伝説的なオルガニストでもありました。コンサートの後半には必ず自らの即興演奏の枠を設け、バロック様式などによる圧巻の即興を披露して聴衆を魅了しました。1960年代には、あの巨匠イゴール・ストラヴィンスキーが彼女の演奏録音を聴き、ハンガリーを代表する作曲家であるコダーイやバルトークに匹敵すると絶賛したほどです。さらに彼女は文学にも造詣が深く、シェイクスピアのソネットをハンガリー語に翻訳したり、ハンガリーの数々の名詩に曲をつけたりと、マルチな才能を発揮しました。教育と演奏、そして作曲に生涯を捧げた彼女は、1999年10月20日、生まれ故郷でもあるブダペストにて73歳でその尊い生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:トロンボーンソナタ(無伴奏トロンボーンのためのソナタ】
キシュテーテーニが遺した数少ない管楽器作品の一つが、この『トロンボーン・ソナタ(Sonata for Solo Trombone)』です。ハンガリーのレコードレーベル「フンガロトン(Hungaroton)」からリリースされた現代音楽集などのアルバムに収録されており、楽譜はハンガリーのAKKORD社などから出版されています。
正確な作曲年についての公式な記録は明記されていませんが、彼女が活発に作曲・演奏活動を行い、フンガロトン・レーベルの録音に関わっていた1960年代〜1970年代頃の作品と目されています。ピアノなどの伴奏が一切なく、トロンボーンがたった1本だけでステージに立ち、メロディと言葉を紡ぎ出すように演奏される非常にストイックでドラマチックな名曲です。
【聴きどころ】
1)伴奏なし、楽器1本だけで描かれる圧倒的な立体感
ピアノなどの伴奏楽器が一切つかない「無伴奏」のスタイルです。トロンボーンという楽器が持つ本来の響き、豊かな音量、そして静寂との対比がダイレクトに伝わり、まるで広い空間に一筋の光が差し込むような、潔くも力強い響きを堪能できます。
2)第1楽章「マエストーゾ・コン・ソノーレ」の堂々とした幕開け
第1楽章には「マエストーゾ・コン・ソノーレ(堂々と、響きを豊かに)」という指示が与えられています。まるで即興演奏の大家であった彼女のオルガン演奏を思わせるような、深く堂々としたトロンボーンの咆哮と、それに続く語りかけるような抒情的なメロディのコントラストが見事です。
3)ハンガリーの民俗音楽を感じさせる独特な歌のニュアンス
彼女は同郷の先輩であるコダーイの精神を受け継ぎ、ハンガリーの合唱音楽や詩を深く愛していました。このソナタの随所にも、どこかハンガリーの民族的な哀愁や、人間の「声」で言葉を歌い上げているかのような人間味あふれるフレーズが散りばめられており、聴く人の心に深く染み入ります。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
キシュテーテーニ、メリンダ:トロンボーンソナタ
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