一日一曲(1916)フィリドール、フランソワ・アンドレ・ダニカン:歌劇『トム・ジョーンズ』
本日は、生誕300年(1726年9月7日生)を迎えらえたフランスの作曲家、フランソワ=アンドレ・ダニカン・フィリドールさんの曲をご紹介します。
【フランソワ=アンドレ・ダニカン・フィリドール:チェスの天才とオペラ=コミックの巨匠という二つの顔を完璧に併せ持った18世紀フランスの異彩】
フランソワ=アンドレ・ダニカン・フィリドールは、1726年9月7日にフランスのドルーで生まれました。代々王室音楽家を輩出してきた由緒ある音楽一家の出身であり(「フィリドール」はルイ13世から与えられた通称)、幼少期よりヴェルサイユの王室礼拝堂でアンドレ・カンプラに師事して音楽の才能を開花させました。
しかし1745年頃、借金のためにフランスを離れざるを得なくなります。このヨーロッパ流浪の旅を支えたのが、もう一つの突出した才能である「チェス」でした。1749年、23歳の時に執筆したチェス理論書『チェスの分析(Analyse des échecs)』は、1920年代までに98回も再版される歴史的名著となり、彼はロンドンを中心に欧州最強のチェスプレイヤーとして絶大な名声と収入を得ました。
1752年、パリで「ブッフォン論争(フランス音楽とイタリア音楽の優劣を巡る論争)」が巻き起こると、友人であった哲学者ディドロらの強い勧めでフランスへ帰国します。フィリドールはチェス盤から楽譜へと主戦場を移し、台詞と歌を交互に配した新しい劇音楽ジャンル「オペラ=コミック(comédie mêlée d’ariettes)」の開拓者として約20作品を手掛け、同ジャンルの地位向上に決定的な役割を果たしました。
その後もチェス師範としてのロンドン滞在とパリでの作曲活動を往復して過ごしましたが、フランス革命の混乱期にロンドンへ渡っていたことが災いし、革命政府から亡命者リストに載せられたことで帰国が叶わぬまま、1795年8月31日にロンドンでその生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:歌劇『トム・ジョーンズ』】
ヘンリー・フィールディングの有名小説をもとに、1765年に初演(1766年にミシェル=ジャン・スダインの改訂版で大成功)されたフィリドールの最高傑作とされるオペラ=コミックです。
チェスの先を見通す精密な盤面構成力が、音楽の対位法や壮大なアンサンブルの組み立てに惜しみなく発揮されています。当時のオペラ=コミックとしては異例なほど管弦楽法が充実しており、登場人物たちの入り組んだ心理や混乱を、チェスの複雑な局面のように見事に音楽として緻密に構築しています。
<あらすじ>
孤児トムは養父の姪ソフィーと愛し合うが、遺産を狙う義弟ブリフィルの陰謀で追放される。宿屋での大混乱の中、トムが実は正当な後継者だと証拠の手紙で判明。悪事は暴かれ、二人は結ばれてハッピーエンドを迎える。
【聴きどころ】
1)狩りの臨場感が弾ける「第1幕の狩りのアリアと唱和」
ソフィーの父ウェスタン氏が歌うアリア(第5曲)から続く重唱(第6曲)では、角笛(ホルン)の響きと躍動感あふれるリズムで狩りの興奮がリアルに描写されます。フィリドールの緻密なオーケストレーションが光る、序盤の大きな聴きどころです。
2)盤面のような緻密な錯綜
「第2幕フィナーレの7重唱」二人の密会が発覚し、トムが追い出される混乱を描いた大曲(第5曲)。7人の登場人物それぞれの怒り、悲しみ、動揺といった異なる感情と旋律が密接に絡み合い、まるで計算し尽くされたチェスの終盤戦のような圧倒的な音楽的密度を誇ります。
3)ドラマティックなクライマックス
「第3幕ソフィーのアリアと二重唱」第3幕後半のソフィーのアリア「Ah! Que suis-je devenue?」(第9~10曲)からトムとの感動的な再会の二重唱(第11曲)へと続く場面。劇的な声楽旋律とオーケストラの交わし合いが美しく、クラシックのオペラならではの抒情性と愛の喜びを存分に堪能できます。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
フィリドール、フランソワ・アンドレ・ダニカン:歌劇『トム・ジョーンズ』
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