一日一曲(1840)ヴェルレ、ラーシュ・ユーハン:夜の狩り
本日は、生誕100年(1926年6月23日生)を迎えらえたスウェーデンの作曲家ラーシュ・ユーハン・ヴェルレさんの曲をご紹介します。
【ラーシュ・ユーハン・ヴェルレ:言葉の響きを鮮やかな音階へと変貌させる、現代スウェーデン・オペラ劇伴界の鬼才】
ラーシュ・ユーハン・ヴェルレは1926年6月23日、スウェーデンのイェヴレボリ県・イェヴレ(Gävle)に生を受けました。当初から純粋なクラシックの作曲家を目指していたわけではなく、ウプサラ大学で音楽学を修める傍ら、ジャズ・ピアニストとして実践的な音楽活動に没頭していました。その後、ストックホルムにおいて高名な作曲家スヴェン=エリック・ベックに師事したことで、本格的な現代音楽の作曲技法を修得することとなります。
彼の名がスウェーデン音楽界に轟く決定打となったのは、1960年代に発表した室内オペラ『地獄の旅(Drömmen om Therèse)』でした。この作品は、観客が演奏者を円状に囲むという画期的な配置を採用し、現代オペラの新しい地平を切り拓いた先駆的傑作として一躍高い評価を獲得しました。その後も、ストックホルムの王立歌劇場などの委嘱により数多くのオペラや演劇のための劇伴音楽を手掛け、同国を代表する舞台音楽の大家としての地位を不動のものにしました。
さらに彼は舞台だけでなく、世界的な映画監督イングマール・ベルイマンの代表作『ペルソナ(仮面/ペルソナ)』や『狼の時刻』の映画音楽を担当したことでもその鋭い劇的センスを証明しています。ジャズの軽妙なエッセンスと、現代音楽の前衛的なアプローチを絶妙に融合させた独自のスタイルを生涯貫き通し、2001年8月3日に西スウェーデンの都市イェーテボリ(Göteborg)でその生涯を閉じました。彼の足跡は、常に言葉や演劇のドラマと深く結びついていたのです。
【本日のご紹介曲:「Nattjakt(夜の狩り / Night Hunt)」】
本日の紹介曲『Nattjakt(夜の狩り)』は、1975年以前にソプラノとピアノのために作曲され、1975年9月21日にスウェーデンのナッカ(Nacka Aula)にて録音された幻想曲(ファンタジー)です。スウェーデンの詩人マッツ・リュイング(Matts Rying)が寄せた、以下のような強烈な情景を描いた4行詩がベースになっています。
「怒りに狂った風が、雨に煙る池のほとりで身をかがめている。
それは突然飛び起き、星たちを追いかける!
星たちは、異教の荒野の中を素足で駆け抜けていく。」
ヴェルレはこの短い詩を紹介するにあたり、言葉の意味をそのまま歌わせるのではなく、言葉を一度解体するという極めて前衛的な手法を選びました。ヴェルレ自身が残した解説によると、彼はこの詩の言葉やフレーズを、一度それらを構成する様々な「音素(発音の最小単位)」へと細かく分解したそうです。…そして、それらの音のパーツを元とは異なる方法で再結合させることで、一種の「新しい言語(歌唱言語)」を作り上げ、それを音楽的な刺激(原動力)として作曲を進めました。
その結果、言葉としての意味を頭で理解することは難しい「知的には解読不能な言語」が使われる楽曲となりました。しかし、それは感情的なレベルで元の詩の緊迫感と深く結びついており、作品全体を通じて詩が持つ本質的な生命力が、純粋な音のドラマとして息づく独自の構造を持っています。
【聴きどころ】
1)言葉が「純粋な音」へと変貌するスリリングな声の表現
通常の歌曲のように歌詞の意味を追うのではなく、歌手が発する声の響きや、子音・母音の断片がそのまま打楽器や管楽器のような「純粋な音のシンボル」として響く、新しい声の表現力に注目してください。
2)不穏な自然のドラマを描くピアノとソプラノの交錯
風の怒りや激しい狩りの情景を想起させるように、ときに鋭く、ときに幻想的に動くピアノのフレーズと、それに呼応して千変万化するソプラノの緊迫した掛け合いが、短い演奏時間の中に濃密な空気感を生み出します。
3)意味を超えて迫ってくる「感情のダイナミズム」
テキストの意味はあえて抽象化されているものの、詩が本来持っている「夜の荒野を星が駆け抜ける」という原始的でミステリアスなエネルギーが、劇的な音の強弱やアクセントを通じて、聴き手の感情にダイレクトに突き刺さります。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ヴェルレ、ラーシュ・ユーハン:夜の狩り
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