一日一曲(1860)ブッティング、マックス:交響曲第9番
本日は、没後50年(1976年7月13日没)を迎えらえたドイツの作曲家、マックス・ブッティングさんの曲をご紹介します。
【マックス・ブッティング:新古典主義と表現主義の狭間で独自の緻密な対位法を貫き、戦後の東ドイツ音楽界の重鎮となった20世紀ドイツの知られざる交響曲作家】
マックス・ブッティング(Max Butting)は、1888年10月6日にドイツ帝国の首都ベルリンで、鉄物商の父とピアノ教師の母のもとに生まれました。最初の音楽教育は母から受け、その後オルガニストのアルノルト・ドレイヤーに師事します。1908年から1914年にかけてミュンヘン芸術大学(当時のミュンヘン新音楽アカデミー)で高名なマックス・レーガーらに作曲を学び、同時にルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンで心理学や哲学、文学の講義も聴講しました。
第一次世界大戦時は兵役不適格と判定されたため、復員後の1919年から1923年まで父の商売を手伝うことを余儀なくされましたが、その傍らで創作活動を継続します。1920年代に入ると、彼の作品は「国際現代音楽協会(ISCM)」のドイツ支部や「ドナウエッシンゲン音楽祭」で演奏され、時代の先端を行くモダンな作曲家として頭角を現しました。また、ブッティングはラジオという新しいメディアの可能性にいち早く注目した先駆者の一人でもあり、1926年から1933年までベルリンの放送局で文化顧問を務め、音楽学校でラジオ向けの演奏・解釈を教えるスタジオを主宰しました。
しかし、1933年にナチス政権が誕生すると事態は一変します。彼の作風は「退廃音楽」とみなされて放送界から追放され、公の場での演奏機会をほぼ完全に奪われてしまいました。この暗黒の時代、彼は再び生家の上稼ぎである鉄物商の仕事に戻り、1945年まで実業家として生き延びることを強いられました。
第二次世界大戦の終結後、ブッティングはビジネスの世界を完全に離れてフリーランスの作曲家となり、活躍の舞台を東ベルリン(のちの東ドイツ)へと移します。ここから彼の第2の黄金期が始まります。1948年に東ドイツ国家放送委員会のチーフエディターに就任し、1950年には東ドイツ芸術アカデミーの創設メンバーとなりました。同アカデミーの副主席(1956〜1959年)やドイツ作曲家・音調家連盟(VdK)の理事を歴任するなど、国家の音楽政策の要職を担うこととなります。
晩年は東ドイツ政府から祖国功労勲章や国家賞(1973年)を授与され、社会主義現実主義の枠組みの中にありながらも、自身の核である硬派な対位法とモダンな感覚を失わない独自の立ち位置を確立しました。生涯で10曲の交響曲をはじめとする膨大な管弦楽曲や室内楽を残し、1976年7月13日、生まれ故郷であるベルリン(東ベルリン)にて87歳でその生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:交響曲第9番 作品94(1956年作曲)】
ブッティングが戦後、東ドイツの音楽界で名実ともに大家としての地位を固めていた1956年に作曲された作品です(初演:1957年12月28〜29日、フランツ・コンヴィチュニー指揮、ベルリン放送交響楽団)。演奏時間は約28分。
この作品の最大の特徴は、「単一楽章(In einem Satz)」で書かれている点、そして大作曲家ヨハン・ゼバスティアン・バッハへのオマージュとして「B-A-C-H音型」が全編に組み込まれている点にあります。バッハの伝統を受け継ぐ緻密なフーガや対位法(複数の旋律を重ね合わせる技法)が駆使されつつも、重苦しさはなく、どこか引き締まった新古典主義的な快活さと表現主義的な緊張感が同居する、彼の真骨頂とも言える傑作です。
【聴きどころ】
1)有機的に繋がる「単一楽章」のドラマ
全曲が途切れなく演奏される単一楽章の形式ですが、その中に従来の交響曲が持つ「急速な主部」「緩徐部」「舞曲風の要素」「フィナーレ」といった多様なキャラクターが凝縮されています。場面が万華鏡のように変化しながらも、一つの巨大な奔流として結末へ向かう構築美が見事です。
2)随所に潜む「B-A-C-H(バッハ)音型」の探求
ドイツ音名で「B(シのフラット)- A(ラ)- C(ド)- H(シ)」という4つの音からなる有名なテーマが、作品の重要なモチーフとして組み込まれています。この音型が時に大胆に、時に巧妙に変形されながら楽器間を駆け巡る様子は、まるで音のパズルを解き明かすような面白さがあります。
3)コンヴィチュニーの歴史的名盤による、引き締まったオーケストレーション
東ドイツの伝説的巨匠フランツ・コンヴィチュニーが初演直後に録音した音源(現在ナクソス・ミュージック・ライブラリーに収録されている音源、本日お聴きいだたくものです!)で聴くことができます。ブッティングのスコアの特徴である、各楽器が独立して動き回る「線的な対位法」が、ベルリン放送響のいぶし銀の響きによって明晰かつダイナミックに再現されています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ブッティング、マックス:交響曲第9番
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