一日一曲(1938)ソコラ、ミロシュ:B-A-C-Hによるトッカータ風パッサカリア
本日は、没後50年(1976年9月28日没)を迎えられたチェコの作曲家兼ヴァイオリニスト、ミロシュ・ソコラさんの曲をご紹介します。
【ミロシュ・ソコラ:チェコ音楽の伝統を礎に、緻密な構築美と烈しい推進力を響きの中に刻み込んだ「音の建築家」】
ミロシュ・ソコラは、1913年4月18日、現在のチェコ共和国モラヴィア地方のブチョヴィツェ(Bučovice)に生まれました。音楽好きの家庭に育ち、ブルノ音楽院でオタカル・ヴァーヴラにヴァイオリン、ヴィレーム・ペトルジェルカに作曲を学び、1938年に修了しました。その後、プラハ音楽院のマスター・スクールに進み、チェコ近代音楽を代表する作曲家ヴィーチェスラフ・ノヴァークに師事します。
経済的事情から一時学業を中断し、1941~42年にはクロムニェジーシュの音楽学校で働きましたが、その後学業に戻り、1944年にはヤロスラフ・クシチカのもとで作曲課程を修了しました。1942年には名指揮者ヴァーツラフ・ターリヒに招かれ、プラハ国民劇場管弦楽団のヴァイオリン奏者となり、1973年の引退まで約30年間にわたり在籍しました。
演奏家として活動する一方で作曲を続けましたが、多作家というより、一つ一つの作品を時間をかけて練り上げるタイプの作曲家でした。作品はオペラ、管弦楽曲、協奏曲、室内楽、ピアノ曲、歌曲など幅広く、オペラ《放蕩息子》、ヴィーチェスラヴァ・カプラーロヴァーの主題による管弦楽変奏曲、ヴァイオリン協奏曲、5曲の弦楽四重奏曲などを残しています。なかでもオルガン作品は国外でも演奏され、《B-A-C-Hによるトッカータ風パッサカリア》は今日もっとも知られた作品の一つとなっています。
1973年に国民劇場を退職すると、プラハの西に位置するマレー・キシツェ(Malé Kyšice)に移り、晩年の数年間を集中的な作曲活動に費やしました。この時期には、彼の大規模作品の一つである《変奏交響曲》も完成しています。同曲はソコラの死後、1979年にリボル・ペシェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されました。ソコラはその初演を聴くことなく、1976年9月28日に亡くなりました。晩年を過ごしたマレー・キシツェで心臓発作に見舞われたと伝えられています。
※没日については9月27日とする資料もありますが、ブルノ市百科事典やプラハ第2区百科事典では9月28日とされているため、ここでは9月28日を採用しています。
【本日のご紹介曲:B-A-C-Hによるトッカータ風パッサカリア】
原題は「Passacaglia quasi toccata na téma B-A-C-H」。1963年に作曲されたオルガン独奏曲で、ソコラの作品のなかでも特によく知られています。
作品の核となっているのは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの名前をドイツ式音名に置き換えた、有名なB-A-C-H主題です。ドイツ式音名では、B=変ロ、A=イ、C=ハ、H=ロとなるため、音にすると「変ロ-イ-ハ-ロ」という4音になります。この音型はシューマン、リスト、レーガーなど数多くの作曲家が用いてきた、いわば「音によるバッハの署名」です。
ソコラはこの4音を、伝統的なパッサカリアのように作品を支える基礎として用いながら、その上に激しく運動するトッカータ風の音型を重ねていきます。ペダルに長く引き伸ばされたB-A-C-H主題が置かれ、その上を猛烈な運動感をもつ音型が駆け巡るため、「パッサカリア」であると同時に「トッカータ」と呼ぶにふさわしい作品です。
静的で重厚な低音と、絶えず動き続ける上声部。この二つの対照から生まれる緊張が次第に膨張し、作品は巨大なクライマックスへ向かいます。バロック以来の形式を踏まえながらも、単なる古典様式の模倣ではなく、20世紀ならではの鋭い和声感覚とオルガンの巨大な音響を生かした作品です。
演奏時間は約6分ほどの作品ですが、B-A-C-Hというわずか4音の素材から、巨大な音響建築が立ち上がっていくような密度を備えています。
【聴きどころ】
1)低音に潜む「B-A-C-H」を追ってみる
最初は華やかに動き回る上声部に耳を奪われますが、その土台にはB-A-C-Hの4音があります。この低音を意識すると、一見自由奔放に聞こえる音楽にも、非常に強固な設計図が隠されていることが分かります。
2)「重い土台」と「疾走する上声」のコントラスト
低音はパッサカリアらしく重量感をもって進む一方、手鍵盤ではトッカータのような細かな音型が休みなく駆け巡ります。いわば巨大な建物の基礎は動かないまま、その内部だけが高速で回転しているような音楽です。この二重構造こそ、この作品最大の面白さです。
3)終盤へ向かって膨れ上がる音響
曲が進むにつれて音の密度が増し、音域も広がり、オルガンの響きそのものが徐々に巨大化していきます。旋律を追うというより、約6分間をかけて緊張が積み上がっていく過程そのものを味わうと、この作品の迫力がよく伝わります。最後には、わずか4音のB-A-C-Hが壮大な音の建築物へと姿を変えます。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ソコラ、ミロシュ:B-A-C-Hによるトッカータ風パッサカリア
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