一日一曲(1950)ネルーダ、ヨハン・バプティスト・ゲオルク:ホルン協奏曲変ホ長調

 本日は、没後250年(1776年10月11日没)を迎えられたボヘミア出身の作曲家兼ヴァイオリニスト、ヨハン・バプティスト・ゲオルク・ネルーダさんの曲をご紹介します。

【ヨハン・バプティスト・ゲオルク・ネルーダ:ボヘミアから音楽都市ドレスデンへ渡り、弦楽器作品を中心に活躍しながら、ホルンの天空のような超高音域を自在に歌わせた、後期バロックから古典派への橋渡し役】
 ヨハン・バプティスト・ゲオルク・ネルーダ(Johann Baptist Georg Neruda、チェコ語名 Jan Křtitel Jiří Neruda)は、1711年頃、ボヘミアに生まれたと考えられているヴァイオリニスト、作曲家です。出生地はロシツェ(Rosice)と伝えられてきましたが、該当すると考えられる地域の教会記録から出生記録は確認されておらず、フランス国立図書館(BnF)はプラハを出生地としているなど、現在も確定していません。生年についても古い文献には1707年頃などの説がありましたが、ドレスデン宮廷教会の埋葬記録に、1776年10月11日に65歳で亡くなったことが記録されているため、現在では1711年頃とする説が有力です。
 ネルーダはプラハで音楽教育を受け、ヴァイオリンやチェロを学び、劇場のオーケストラでも演奏したとされています。1741年にはドレスデンへ移り、まずポーランド王アウグスト3世の異母兄であるフリードリヒ・アウグスト・ルトフスキー伯爵にヴァイオリニストとして仕えました。1749年から1750年頃には、ヨーロッパでも屈指の楽団だったドレスデン宮廷楽団のヴァイオリニストとなり、長くその一員として活動しました。
 なお、資料によってはネルーダを宮廷楽団の「コンサートマスター」とするものもありますが、ドレスデン側の研究では、宮廷楽団ではヴァイオリニストとして活動し、次第に席次を上げたとされています。そのため、ここでは「宮廷楽団のヴァイオリニスト」とするのがより慎重でしょう。
 ネルーダの作品では弦楽器を用いたものが大きな割合を占め、現在知られているだけでも30曲以上の交響曲、同じく30曲以上のトリオ・ソナタ、10曲のヴァイオリン協奏曲、8曲のヴァイオリン・ソナタなどがあります。一方、管楽器のための協奏曲としてはファゴット協奏曲と、今日もっとも有名になった変ホ長調のホルン協奏曲が残されています。
 1772年頃には高齢のため演奏活動から退き、1776年10月11日、長年活動したドレスデンで亡くなりました。

【本日のご紹介曲:ホルン協奏曲変ホ長調】
 本曲は、ネルーダの代表作です。ただし、この作品を「トランペット協奏曲 変ホ長調」という名前でご存じの方も多いかもしれません。実は、どちらも同じ曲なのです。
 作品はネルーダがドレスデンへ移った後、1740年代、おそらく1750年以前に作曲されたと考えられています。唯一残っている資料はパート譜の写譜で、その筆跡が1750年までドレスデン宮廷楽団で活動していた写譜師のものと考えられることや、音楽様式がまだ明確にバロック的であることから、この年代が推定されています。
 当時のドレスデンは、18世紀ヨーロッパにおけるホルン演奏の重要な中心地でした。ネルーダの周囲にはヨハン・ゲオルク・クネヒテル、アントン・ヨーゼフ・ハンペル、カール・ハウデックといった名ホルン奏者がおり、中でもクネヒテルは、ホルンの非常に高い音域を演奏する「クラリーノ奏法」の名手でした。ネルーダの協奏曲もこの極端に高い音域を駆使することから、クネヒテルのために作曲された可能性が高いと考えられています。
 残された資料には作品名が《Concerto à Corno Primo》、つまり「第1ホルンのための協奏曲」と記されています。当時の第1ホルン奏者は、高い倍音を利用して旋律を奏でることを得意としていました。したがって、「本当はトランペット協奏曲だったものが誤ってホルン協奏曲と呼ばれた」というわけではなく、もともとは間違いなくホルンのために書かれた作品です。
 ところが、この曲の独奏パートは現代のホルンで演奏しても驚くほど高く、最高音は自然ホルンの第24倍音にまで達します。現代のバルブ付きホルンでも非常な難曲ですが、その音域は現代のトランペットには比較的適しています。そのため1968年にプラハで初めて出版された際、トランペット用に現代化された版が作られ、その後「ネルーダのトランペット協奏曲」として広く知られるようになりました。現在ではホルンでもトランペットでも演奏されています。
 全3楽章で、
  第1楽章 Allegro
  第2楽章 Largo
  第3楽章 Vivace
という構成です。

【聴きどころ】
1)「これをホルンで?」と思わせる、第1楽章の天空を駆ける超高音
 第1楽章《Allegro》でまず驚かされるのが、独奏楽器の非常に高い音域です。現代のホルンでも演奏技術の限界に近いところを要求されます。しかも単に高い音を鳴らすだけではなく、細かな音型や跳躍を軽々と連ね、独奏楽器が弦楽合奏の上を飛び回ります。
 冒頭楽章では軽快な弱起や、短い音と長い音を組み合わせるいわゆる「ロンバルディア・リズム」も音楽に弾力を与えています。
 ここはぜひホルン版とトランペット版を聴き比べてみてください。トランペットでは明るく鋭い輝きが前面に出るのに対し、ホルンでは同じ高音でも丸みと奥行きがあり、「この高さをホルンで吹いているのか!」という驚きも加わります。

2)第2楽章、金管楽器とは思えないほどの「歌」
 第2楽章《Largo》では雰囲気が一変します。独奏楽器がゆったりとした長い旋律を歌い、華麗な技巧よりも息の長いカンタービレが中心となります。
 この楽章は大きく二つの長い抒情的な旋律からなり、その間を二つのカデンツァが区切る構成となっています。
 特にホルンで聴くと、その柔らかな音色が人の声のように響きます。一方、トランペット版では透明感のある一本の光の筋のような旋律となり、同じ楽譜でもかなり印象が変わります。「金管楽器は勇壮な音を出すもの」というイメージを忘れて、ネルーダが独奏楽器にどれほど豊かに歌わせているかに耳を傾けたい楽章です。

3)第3楽章、シンコペーションで弾む優雅な舞曲
 終楽章《Vivace》は、軽快な舞曲のような音楽です。シンコペーションによって拍子が前へ前へと押し出され、独奏楽器と弦楽合奏が生き生きと掛け合います。この楽章は「シンコペーションによって推進される優雅な舞曲」と表現されることもあります。
 ここで興味深いのは、ホルンがもはや「狩りの合図」を鳴らす楽器として扱われていないことです。18世紀以前のホルンには狩猟を象徴する役割が強く残っていましたが、この作品では旋律を歌い、技巧を披露し、オーケストラと対話する完全な独奏楽器へと変貌しています。ネルーダの協奏曲は、ホルンが狩猟の野原からコンサートホールの舞台中央へ歩み出した瞬間を聴かせてくれる作品ともいえるでしょう。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ネルーダ、ヨハン・バプティスト・ゲオルク:ホルン協奏曲変ホ長調(ホルン版)

ネルーダ、ヨハン・バプティスト・ゲオルク:ホルン協奏曲変ホ長調(トランペット版)

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