一日一曲(1944)スウィート、アルバート・C:リングリング・ブラザーズ・グランド・エントリー

 本日は、生誕150年(1876年7月7日生)を迎えられたアメリカの作曲家、アルバート・C・スウィートさんの曲をご紹介します。

【アルバート・C・スウィート:サーカスの大テントを音楽で沸き立たせ、リングリング・ブラザーズから巡回文化運動ショトーカへとアメリカ各地を駆け巡った、コルネット奏者・作曲家・名バンドマスター】
 アルバート・C・スウィート(Albert C. Sweet、通称 Al Sweet)は、1876年7月7日、アメリカ・ニューヨーク州ダンズヴィルに音楽一家の子として生まれました。父はヴァイオリン、母はピアノを演奏し、スウィートも初めは父からヴァイオリンを学びましたが、8歳ごろにはコルネットを吹き始めます。14歳だった1890年には早くもストウ・ブラザーズ・サーカスのバンドに参加しました。その後、著名なコルネット奏者ウィリアム・パリス・チェンバーズに才能を認められ、指導を受けています。
 1895年にはスクリブナー&スミス・サーカスのバンドマスターとなり、1897年にはグレート・ウォレス・サーカスのコルネット独奏者を務めました。1899年ごろから1905年ごろまではエジソン蓄音機会社に勤務し、コルネット奏者から音楽監督へと進みます。当時の録音で、コルネットのトリプル・タンギングを披露した先駆者とも伝えられています。また楽器メーカーC.G. Connではコルネットの試奏・検査にも携わりました。
 大きな転機は1906年でした。リングリング・ブラザーズ・サーカスの音楽監督に就任し、1911年シーズンまでバンドを率います。サーカスではオペラ序曲から当時のブロードウェイ音楽、行進曲まで幅広いレパートリーを演奏し、この時期に代表作「リングリング・ブラザーズ・グランド・エントリー」などを書きました。
 1911年にリングリングを離れた後は、コロラド・スプリングスのミッドランド・バンドを指揮し、1914年には自らホワイト・ハサーズ・バンド(White Hussars Band)を結成します。この楽団は、演奏だけでなく団員全員が歌い、ア・カペラの合唱まで披露するユニークな「歌うバンド」として人気を博しました。特に、講演・演劇・音楽などを地方へ届けたアメリカの巡回文化運動「ショトーカ(Chautauqua)」で主要な呼び物となり、1933年のシカゴ万国博覧会にも出演しています。晩年にはシカゴで音楽指導も行いました。
 1945年5月12日、シカゴの自宅で心臓発作を起こし、68歳で亡くなられました。

【本日のご紹介曲:リングリング・ブラザーズ・グランド・エントリー】
 本曲はスウィートを代表するサーカス・マーチで、リングリング・ブラザーズ・サーカスの音楽監督を務めていた時期に書かれ、1911年にロシター社から出版されました。サーカス音楽を保存・研究する Windjammers Unlimited も、この曲をスウィートの「最もよく知られた作品」としています。
 題名の「Grand Entry」とは、単なる「入場行進」というより、サーカス本公演の冒頭を飾る出演者・馬・動物たちによる華麗な大入場を意味します。当時のリングリングの記録には、100頭もの馬と300人の男女が参加するグランド・エントリーで、まずトランペット奏者が登場し、それに軍楽隊が続いた様子が記されています。つまりこの曲には、大テントの中へ出演者たちが次々となだれ込み、観客の期待が一気に沸騰する光景が重なっていたわけです。
 曲調は華やかで力強く、金管楽器を中心とした明快なマーチの響きに、軽快な木管や打楽器が加わります。しかし、サーカス・マーチという言葉から想像する超高速・超絶技巧一辺倒の作品ではありません。現代版を出版するC.L. Barnhouseも、他の多くのサーカス・マーチと比べて技巧的要求は比較的穏やかでありながら、オリジナルの色彩と雰囲気を保った作品と紹介しています。

【聴きどころ】
1)「いよいよショーが始まる!」という高揚感
 この曲でまず味わいたいのは、整然とした軍隊の行進というより、観客の前へ次々と出演者たちが姿を現すショーの開始を告げるエネルギーです。明快なマーチの拍動と華やかな吹奏楽の響きから、大テントの幕が一気に開くような感覚を味わってみてください。当時の「Grand Entry」そのものが巨大な視覚的スペクタクルだったことを知ると、音楽の景色がぐっと立体的になります。

2)金管の輝きと木管の軽快さの掛け合い
 コルネット奏者として第一線で活躍したスウィートらしく、曲全体を引っ張る金管の明るく鮮烈な響きが魅力です。その一方で、木管の細かな動きや内声、打楽器のリズムが音楽を絶えず前へ押し出します。「メロディーだけ」を追うのではなく、金管、木管、低音、打楽器が次々に役割を受け渡していく様子に耳を向けると、サーカス・バンドならではの色彩が見えてきます。

3)派手さの中にある、意外なほど端正なマーチの作り
 題名から「ものすごい速さのサーカス音楽」を想像すると、むしろその端正さに驚くかもしれません。勢いはありながら旋律は明快で、フレーズの区切りも分かりやすく、聴衆を置き去りにしません。サーカスの現場で長く指揮したスウィートは、演奏家だけでなく大勢の観客へ一瞬で音楽を届ける方法を知っていました。その「分かりやすさ」と「華やかさ」の絶妙な釣り合いこそ、この曲の大きな魅力だと思います。現在もコンサート用マーチとして演奏され続けている理由も、そこにありそうです。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
スウィート、アルバート・C:リングリング・ブラザーズ・グランド・エントリー

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