一日一曲(1943)ウィリアムズ、メイリオン:夜想曲変イ長調

 本日は、没後50年(1976年10月4日没)を迎えられたウェールズの作曲家、メイリオン・ウィリアムズさんの曲をご紹介します。

【メイリオン・ウィリアムズ:ウェールズ語の詩情を、歌う旋律と豊かなピアノ書法で描き出した、20世紀ウェールズ歌曲を代表する作曲家・ピアニスト】
 メイリオン・ウィリアムズ(Meirion Williams)は、出生名をウィリアム・ロバート・ウィリアムズ(William Robert Williams)といい、1901年7月19日、ウェールズ北西部のディフリン・アルドゥドゥイ(Dyffryn Ardudwy)のグラニウェルン(Glanywern)に生まれました。「メイリオン」という名は学生時代から使い始め、第二次世界大戦中に正式に採用しました。母メアリー・エリザベスは地元の教会合唱団で熱心に歌っており、ウィリアムズも幼いころからその音楽的才能を受け継ぎました。盲目のピアノ教師J・L・オーウェンにピアノを学び、少年時代にはすでに地元の教会でオルガンを弾いていました。
 1919年、ハーレック音楽祭で伴奏を務めた際、イギリスの著名な作曲家・教育者ウォルフォード・デイヴィスの目に留まり、アベリストウィスのウェールズ大学に学ぶ機会を得ます。そこでG・スティーヴン・エヴァンスにピアノを学び、1922年にはロンドンの王立音楽院へ進学。カルロ・アルバネージとエドガー・カーに師事し、ピアノ独奏の最高賞をはじめ数々の賞を獲得しました。1927年にはLRAM資格を取得し、ウィグモア・ホールなどでもピアニストとして演奏しています。
 その後はロンドンを拠点に、ピアニスト、伴奏者、オルガニスト、作曲家として活動しました。1930年代から作曲家として注目され、とりわけウェールズ語の詩による歌曲で高い評価を受けます。《Gwynfyd》《Y Llyn》《Pan Ddaw’r Nos》《Cwm Pennant》などでは、言葉の抑揚を生かした叙情的な旋律と、単なる伴奏にとどまらない精緻なピアノ書法が特徴となっています。
 第二次世界大戦中には故郷へ戻ったのち、1942年から再びロンドンで音楽活動を行いました。1948年にはテノール歌手デイヴィッド・ロイドのウェールズ歌曲録音で伴奏を担当し、1951年以降も教会オルガニストなどを務めました。また、ウェールズの音楽祭「アイステズヴォッド」の審査員としてたびたび故郷へ戻っています。1976年10月4日、演奏の仕事へ向かう途中に体調を崩し、ロンドンのミドルセックス病院へ搬送される途中で亡くなりました。75歳でした。その歌曲作曲家としての資質から、没後にはマンセル・トーマスによって『ウェールズのロジャー・クィルター』とも評されています。

【本日のご紹介曲:夜想曲変イ長調】
 《夜想曲 変イ長調》は、ウィリアムズのピアノ独奏曲です。歌曲作曲家として知られる彼の、ピアノ書法の巧みさを知ることのできる貴重な作品ですが、驚くことに作曲年は分かっていません。
 さらに興味深いのは、この作品そのものが長い間ほとんど忘れられていたことです。ウィリアムズの娘ネリス(Nerys)から提供された未完成稿と、Tŷ Cerddの資料室に残されていた判読しにくい完成稿のコピーを照合することによって、ようやく演奏可能な楽譜が復元されました。そして、ウィリアムズの死から40年以上を経た2019年8月4日、ウェールズのスランルストで開催されたナショナル・アイステズヴォッドで初めて公開演奏されました。
 曲はおよそ5分弱で、ABAの三部形式をとっています。静かで内省的な音楽によって始まり、外側のA部分では、ウィリアムズの歌曲を思わせる「歌うような旋律」が透明感のあるピアノ書法の中から浮かび上がります。
 対照的に中央部では音楽が大きく広がり、豊かなアルペッジョの上に伸びやかな旋律が歌われます。この部分はラフマニノフからの影響が指摘されています。次第に音楽は高揚し、作品最大の力強いクライマックスへ到達します。その後、冒頭の静かな世界が戻ってきますが、単純な繰り返しではなく、音型や響きがより豊かになっています。最後は豊潤な響きをもつコーダへ進み、穏やかな余韻の中で閉じられます。

【聴きどころ】
1)「言葉のない歌曲」のような冒頭
 最初に耳を向けたいのは旋律です。ウィリアムズは本来、歌曲で名を残した作曲家ですが、その特質がピアノ曲にもよく表れています。静かな伴奏の中から旋律が自然に浮かび上がり、まるで歌手が息を吸って歌い始めるようにフレーズが形づくられます。「歌曲作曲家がピアノに歌わせている」と考えて聴くと、この作品の魅力がぐっと見えやすくなります。

2)中央部で突然開けるラフマニノフ的な世界
 穏やかだった音楽が中央部に入るとスケールを増し、広い音域を駆け巡るアルペッジョと、大きく息をする旋律が現れます。ここにはラフマニノフを思わせる後期ロマン派的な濃密さがあります。静かな夜想から次第に感情が膨らみ、力強い頂点へ達するまでの変化が、この短い作品最大のドラマです。

3)同じ場所へ戻りながら、同じではない再現部
 クライマックスのあと冒頭の音楽が戻ります。しかし、最初より音型が豊かになり、どこか切迫感を帯びています。一度大きな感情の波を経験したあとで、同じ景色をもう一度眺め直すような再現です。最後の充実したコーダまで耳を傾けると、わずか5分弱の作品ながら、「静寂 → 高揚 → 静寂」という美しい弧が描かれていることが分かります。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ウィリアムズ、メイリオン:夜想曲変イ長調

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