一日一曲(1875)グリゴリウ、テオドール:トリニティ協奏曲

 本日は、生誕100年(1926年7月25日生)を迎えらえたルーマニアの作曲家、テオドール・グリゴリウさんの曲をご紹介します。

【テオドール・グリゴリウ:ルーマニアの民俗精神と神秘的なビザンティン聖歌を融合させ、独自の音響世界を築き上げた20世紀の「音の宝石細工師」】
 テオドール・グリゴリウは、1926年7月25日、ルーマニア南東部モルダヴィア地方の港町ガラツィに生まれました。幼少期から音楽の才能を示した彼は、ブカレスト音楽院でヴァイオリンをジョルジェ・エナコヴィチに学び、並行してロメオ・アレクサンドレスクやミハイル・ジョラから作曲の指導を受けます。17歳という若さで書いた『弦楽四重奏曲第1番』が「ジョルジェ・エネスク国家作曲賞」を受賞し、早熟な天才として楽壇に頭角を現しました。その後、1954年から1年間モスクワ音楽院に留学し、巨匠アラム・ハチャトゥリアンにも師事しています。
 グリゴリウの音楽生活において極めてユニークなのは、彼が作曲家であると同時に、専門的な教育を受けた「建築家」でもあった点です。建築で培われた空間的な感性は、彼の緻密で精巧なオーケストレーションや、微細な音の色彩を組み上げる職人技のような作風に深く影響を与えました。その手腕は、30本以上の映画音楽の分野でも発揮され、彼が音楽を手がけた映画『絞首台の森』(1964年)は、1965年のカンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞するなど国際的にも高く評価されています。
 晩年の彼は、中世東方キリスト教の「ビザンティン聖歌」の旋律や記譜法を深く研究し、古代の祈りと現代の響きを融合させる作風へと至りました。伝統的なルーマニアの哀愁を湛えながらも、独自の音列による新しいモダンな響きを追求し続けたグリゴリウは、2014年5月21日、首都ブカレストにて87歳でその生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:トリニティ協奏曲(ヴァイオリンとオーケストラのための)】
 本日ご紹介する『トリニティ協奏曲(ヴァイオリンとオーケストラのための)』は、グリゴリウが1994年に作曲した記念碑的なヴァイオリン協奏曲です。アメリカ・インディアナポリスにあるトリニティ・エピスコパル教会の新聖堂誕生75周年を記念して委嘱され、ルーマニア出身の名ヴァイオリニスト、シェルバン・ルプの独奏によって初演されました。
 タイトルに掲げられた「トリニティ(三位一体)」の通り、本作はキリスト教の精神世界が美しく投影されており、古代ギリシャ語とビザンティン文化に由来する以下の3つの楽章で構成されています。
  第1楽章:パンメロディオン — 天へと昇る歌の長い旅路(Panmelodion – The song’s long journey up to heaven)
  第2楽章:トレニ — おお、ゴルゴタよ!(Threni – Oh, Golgotha!)
  第3楽章:ディアファニア — 永遠の運動(Diaphania – The eternal movement)
 東西の文化が交差するルーマニアならではの、神秘的でエキゾチックな響きを体験できる名作です。

【聴きどころ】
1)天上へ昇りゆくヴァイオリンの長い旋律線
 第1楽章「パンメロディオン」の冒頭から現れる、独奏ヴァイオリンが奏でる極めて息の長いメロディに注目してください。神と人間との結びつきを表現したとされるこの旋律は、まるで祈りが天へと細く、しかし力強く昇っていくかのような神秘的な美しさに満ちています。
2)「ゴルゴタの受難」を思わせる瞑想とドラマ
 第2楽章「トレニ(哀歌)」では、キリストが十字架にかけられたゴルゴタの丘をテーマにした、重厚で哀切な音楽が展開されます。ビザンティン聖歌の持つ独特な節回し(ドローン音)と、オーケストラが描くダークでドラマティックな緊張感の対比が、聴き手の胸に深く迫ります。
3)悪魔と天使の闘いを描くスリリングな終楽章
 第3楽章「ディアファニア」では、作曲者が解説の中で言及している「天使と悪魔の闘い」を彷彿とさせる、激しく躍動的な音楽が繰り広げられます。悪魔のまやかしを模した複雑な変拍子と、それを打ち破るかのように登場する「歌う天使」たちの清らかなヴァイオリンの対比が、息をもつかせぬスリリングな聴きどころとなっています。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
グリゴリウ、テオドール:トリニティ協奏曲

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