一日一曲(1876)アダイエフスキー、エッラ:声とピアノのための24の前奏曲

 本日は、没後100年(1926年7月26日没)を迎えられたロシアの作曲家、エッラ・アダイエフスキーさんの曲をご紹介します。

【エッラ・アダイエフスキー:ロシアとヨーロッパの狭間で独自の音楽世界を開拓し、伝統的な歌曲の枠組みを革新した異色の天才】
 エッラ・フォン・シュルツ・アダイエフスキー(本名:エリザヴェータ・フォン・シュルツ)は、1846年2月22日にロシア帝国のサンクトペテルブルクに生まれました。幼少期から類稀な音楽の才能を示し、8歳から名手アドルフ・フォン・ヘンゼルトに師事してピアノを学び始めます。1862年には設立されて間もないサンクトペテルブルク音楽院に入学し、名高いアントン・ルビンシテインらのもとでピアノを、さらにニコライ・ザレンバらに作曲を師事して本格的な研鑽を積みました。
 1870年頃から作曲家としての本格的な活動をスタートさせ、帝室礼拝堂のための聖歌や、オペラなどの大規模な作品を手掛けるようになります。しかし、皇帝アレクサンドル2世に献呈した4幕の野心的な歌劇『自由の夜明け』が、作中に農民の蜂起が描かれているという理由から検閲に引っかかり、上演を拒否されるという苦難に直面しました。この挫折ののち、彼女は単身ヨーロッパへの演奏旅行へと出発し、ロシアを離れる決意を固めます。
 1882年に姉のパウリーネ・ガイガーの一家と共にイタリアのヴェネツィアへ移住し、同地に定住すると、彼女の音楽的探求はさらに深まりました。土着の民謡の蒐集や古代ギリシャ音楽、ビザンツ典礼の研究に没頭し、四分音を用いた画期的なクラリネット・ソナタを執筆するなど、当時の最先端を行く独創的な作品を次々と生み出していきます。晩年はドイツのボンへと移り住み、独自の思想を音楽に昇華させ続けながら、1926年7月26日に同地で80年の生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:声とピアノのための24の前奏曲】
 本曲は、アダイエフスキーが1890年頃に作曲した、極めて挑戦的かつ美しい連作歌曲集です。ショパンやバッハが鍵盤楽器のために「24の前奏曲(あるいは前奏曲集)」を遺したように、本作もすべての調性を巡る壮大な構成を持っていますが、最大の特徴はそれを「独唱(ソプラノ)とピアノ」というリート(歌曲)の編成で実現している点にあります。歌詞には、アダイエフスキーがヴェネツィアで共に暮らし、幼い頃からその才能を見守ってきた実の大甥(姉の孫)であり、後に詩人・美術史家として活躍したベンノ・ガイガーのテキストが用いられています。全2巻(各12曲)に分かれた計24の小品が、まるで一連の組曲のように有機的に結びついています。親族であり芸術的理解者でもあったガイガーとの深い絆から生まれた本作は、バロック音楽のような様式美を巧みに再現しつつ、19世紀末のロマン派特有のみずみずしい情景描写や内省的な響きが全編に溢れており、彼女の優れたメロディセンスとピアノ書法を存分に堪能できる傑作です。

【聴きどころ】
1)「声」が紡ぎ出す調性のパレット
 器楽曲の定番である「24の前奏曲」という形式を声楽に応用したアイデアが秀逸です。人間の声が持つ温かみのある音色と旋律が、ピアノの緻密な和声と溶け合いながら、曲ごとに万華鏡のように調性を変えていく美しい構成美に魅了されます。
2)詩と音楽が描く多彩な情景
 第2曲『初雪(Erster Schnee)』や第4曲『砂漠(Die Wüste)』など、タイトルに合わせた情景描写が見事です。短い楽曲の中に冬の冷たい空気感や静寂、荒涼とした世界観が凝縮されており、大甥ベンノ・ガイガーによる繊細な詩の言葉と、音による鮮やかなスケッチの融合を楽しめます。 3)バロックの気品とロマン派の情熱の融合
 古楽研究に励んだアダイエフスキーらしく、古典的で引き締まった格調高い様式美がベースにあります。そこに後期ロマン派特有の繊細でエモーショナルな和音が加わることで、懐かしくもどこか新鮮な、独自の洗練された響きを聴かせてくれます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
アダイエフスキー、エッラ:声とピアノのための24の前奏曲

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