一日一曲(1927)ハルストレム、イーヴァル:歌劇「マグヌス公爵と人魚」

 本日は、生誕200年(1826年6月5日生)を迎えられたスウェーデンの作曲家、イーヴァル・ハルストレムさんの曲をご紹介します。

【イーヴァル・ハルストレム:スウェーデン国民オペラの礎を築き、北欧の美しいフォークロアを芸術歌曲や劇場音楽へと鮮やかに開花させた先駆者】
 イーヴァル・クリスティアン・ハルストレム(Ivar Christian Hallström)は、1826年6月5日にスウェーデンのストックホルムで生まれました。幼少期から音楽的才能を示したものの、当初はウプサラ大学で法律を学び、官吏としての道を歩み始めました。しかし音楽への情熱を捨てきれず、ピアノ奏者および作曲家として独学を中心に研鑽を積みました。1852年からはオスカル王子(のちのスウェーデン国王オスカル2世)の音楽教師および音楽アドバイザーに就任し、王室との深い関わりを持つようになります。
 1860年代に入ると、オスカル王子の詩をもとにした独唱と合唱のための作品(『花々の憧れ』や『ヤルマール男爵と美しいイングリッド』など)を発表し、スウェーデン民謡の抒情を取り入れた独自の作風を確立していきました。そして1865年(初演1867年)に書き上げた歌劇『マグヌス公爵と人魚』の記録的な成功により、「スウェーデン国民オペラの創始者」としての地位を決定づけます。
 その後もオペラ『山賊の嫁』(1874年)や『小カリン』(1898年)など、自国の歴史や伝承を題材とした作品を精力的に発表し続けました。彼はスウェーデン音楽界の中心的存在として長年活躍し、1901年4月11日に故郷であるストックホルムにて74歳でその生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:歌劇『マグヌス公爵と人魚』】
 本作(原題:Hertig Magnus och sjöjungfrun)は、フランス・ヘドベリ(Frans Hedberg)の台本に基づき、1865年に作曲(1867年1月28日にストックホルムの王立劇場にて初演)された全3幕のグランド・オペラ/ロマンティック・オペレッタです。
 実在の歴史人物であるグスタフ1世の息子・マグヌス公爵(ヴェッテルン湖畔のヴァドステーナ城に居住)にまつわる伝承「ヴェッテルン湖から聞こえる人魚の歌声に惹かれて水中に身を投じた」というエピソード(いわゆる「ヴァドステーナの騒動」)を題材にしています。北欧の抒情豊かな民謡スタイルと、イタリア・フランスの華やかなオペラ様式が見事に融合した作品です。

【あらすじ】
 第1幕(ヴェッテルン湖畔)
 漁師ペーデルは、かつて王家によって修道院の財産を没収されたことに恨みを抱いています。彼はカトリックの修道士と共謀し、精神的に不安定なマグヌス公爵に娘のアンナ(実は拾い子)を「人魚」に見立てて近づけ、公爵を惑わして教会権力を再興させようと画策します。一方、アンナは若い騎士ブリニョルフと密かに愛し合っています。やがて公爵が湖畔に現れ、舟の上から美しく歌うアンナを本物の人魚と思い込み、幻影に誘われるまま湖へ飛び込んでしまいます。ブリニョルフが即座に湖へ飛び込み、公爵を無事に救出します。

第2幕(ヴァドステーナ城)
 ブリニョルフの父であり公爵の元帥であるステンは、騒動の真相を調べるためペーデルとアンナを城へ呼び出します。ここでブリニョルフはアンナへの愛を父に明かしますが、身分違いの恋として猛反対を受けます。そこへ狂気に囚われたマグヌス公爵が現れ、アンナを再び人魚と思い込んで彼女を抱き締めようとします。怒ったブリニョルフが公爵を押し退けて剣を抜いたため、激怒した公爵との間で一触即発の危機となります。

第3幕(湖畔の静けさ)
 漁師たちの賑やかな祝宴の中、陰で修道士がブリニョルフを刺殺しようと襲いかかりますが、討ち取られて企みが露呈します。一同が驚愕する中(大合唱)、すべての陰謀が明かされます。やがて公爵は再び聞こえてくるアンナ(人魚)の切ない歌声を耳にし、戦いや狂気から解き放たれるように、静かに孤独な城へと戻っていきます。最後は華やかな大合唱ではなく、アンナの旋律をオーケストラと合唱が消え入るようなデクレシェンドで回想しながら、静かに幕を閉じます。

【聴きどころ】
1)性格付けに用いられた「伝統オペラ」と「疑似民謡」の鮮やかな対比
 ハルストレムは登場人物の社会的身分や心理状態に応じて明確に音楽スタイルを使い分けています。庶民である漁師たちや娘リサ、そしてアンナには、スウェーデン民謡の節回しやダンス(ポルスカなど)を用いた親しみやすい旋律を与えています。一方でマグヌス公爵や修道士、元帥ステンには、ヴェルディを思わせる重厚でドラマティックなイタリア・オペラ調のスタイルを用いており、両者の対立と交錯が劇的な効果を生み出しています。

2)ライトモティフとして機能するアンナのロマンス「王の息子は緑の岸辺を歩み」
 第1幕でアンナが舟の上から歌い、マグヌス公爵を魅了する美しい旋律(ロマンス)は、作品全体を象徴する重要なモチーフです。長調と短調が揺れ動く北欧独特の哀愁に満ちたこの歌声は、劇中で何度も効果的に回想され、物語の抒情性を一気に高めます。

3)劇的なクライマックスと余韻を残す静寂のエピローグ
 第2幕フィナーレにおける公爵・ブリニョルフ・アンナの3重唱からなる激しい愛憎の衝突や、第3幕での大アンサンブル(ラルゴ・コンチェルタート)は伝統的なグランド・オペラの醍醐味に溢れています。しかし最大の聴きどころはラストシーンです。従来のオペラのような大騒ぎの祝典合唱ではなく、公爵が静かに城へ去っていく後ろ姿をアンナのロマンスのモチーフが儚く包み込む静寂のエンディングは、北欧ロマン派ならではの深い余韻を残します。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ハルストレム、イーヴァル:歌劇「マグヌス公爵と人魚」

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