一日一曲(1922)リーム、ロルフ:氷河の涙
本日は、本年(2026年)1月22日に逝去されましたドイツの作曲家、ロルフ・リームさんの曲をご紹介します。
【ロルフ・リーム:音響のダイナミズムを極限まで引き出し、古典や神話、社会的テーマを鋭利な美学で再構築した現代音楽界の鬼才】
ロルフ・リーム(Rolf Riehm)は、1937年6月15日にドイツのザールブリュッケンで生まれ、少年期をフランクフルト・アム・マインで過ごしました。ピアノ指導者であった母親の影響のもと早くから音楽に親しみ、フランクフルト音楽・舞台芸術大学およびフランクフルト大学にてオーボエ、作曲、そして音楽学の研鑽を積みました。
1960年代には現代音楽アンサンブル「ムジーク・ツァイト・ゲノッセン」の結成に参加し、高度な技術を持つオーボエ奏者として先鋭的な作品の紹介に尽力します。同時に、社会的・政治的なメッセージを伴うパフォーマンス集団「いわゆる左翼過激派吹奏楽団(Sogenanntes Linksradikales Blasorchester)」の活動にも深く関わり、音楽が持つ社会への影響力や問題提起について精力的な思考を重ねていきました。
1974年には母校フランクフルト音楽・舞台芸術大学の作曲科教授に就任し、2004年に退任するまでの30年間にわたり、国内外の数多くの若手作曲家たちを育成しました。
彼の作品世界は、ギリシャ神話や文学、歴史的事件などを着想源としつつ、オーケストラの伝統的な奏法を解体・歪曲させる独自の響きと、サンプラーや電子音響の精緻なコラージュを特徴としています。また、シューベルトやモンテヴェルディなどの古典名曲を大胆に断片化して再構築する引用手法でも高い評価を確立しました。
生涯を通じてドナウエッシンゲン音楽祭をはじめとするヨーロッパ主要の現代音楽祭で意欲作を発表し続けた彼は、2026年1月22日、長年拠点としていたフランクフルト・アム・マインにて88歳でその波乱に満ちた足跡を残し、静かにこの世を去りました。
【本日のご紹介曲:氷河の涙(Die Tränen des Gletschers)】
本曲は1998年に作曲され、同年のドナウエッシンゲン音楽祭にてハンス・ツェンダー指揮、SWRシュトゥットガルト放送交響楽団(旧バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団)によって初演された大編成オーケストラとサンプラー(電子音響)のための曲です。タイトルの「氷河の涙」は、自然界の壮大な営みと崩壊、そして環境や時間という不可逆な流動性を連想させます。リームはこの作品において、オーケストラの生演奏とあらかじめ緻密に構築されたサンプラーの音響を対立させるのではなく、相互に浸透させることで、聴き手の空間認知を揺さぶる劇的なサウンドスケープを作り出しました。
【聴きどころ】
1)サンプラーと生楽器が織りなす境界のない音響極致
サンプラーから出される歪んだ電子音や異物感のあるサンプリング音と、オーケストラの生楽器群が極限まで融合します。どこまでが生の楽器でどこからが電子音なのか判別不能になるような、不気味で魅力的な音響空間が広がります。
2)巨大な塊となって押し寄せるダイナミズム
まるで巨大な氷河がミシミシと音を立てて崩落し、濁流となって押し寄せてくるかのような、密度の高い音の層(クラスタ)と強烈な打撃音が全編に配置されています。音の物理的な圧力とエネルギーの奔流を体感できます。
3)対比される圧倒的な「静寂」の緊張感
咆哮するようなトゥッティ(全体奏)の直後に突然訪れる一瞬の静寂や、かすかに響く持続音の美しさが強く印象に残ります。爆発的な音響とピンと張り詰めた静寂のコントラストが、楽曲全体に極上の緊迫感を与えています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
リーム、ロルフ:氷河の涙
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