一日一曲(1742)王建中:瀏陽河
本日は、没後10年(2016年2月11日没)を迎えらえた中国の作曲家、王建中さんの曲をご紹介します。
【王建中(ワン・ジャンツォン):ピアノの鍵盤から中国伝統楽器の魂を呼び覚まし、東洋の気高き美学を世界へと轟かせた不滅の先駆者】
王建中は1933年9月22日、芸術と文化が交差する大都市・上海に生まれました。幼少期から音楽に対して驚異的な感性を示した彼は、10歳で本格的にピアノを学び始めます。1950年には中国最高峰の音楽教育機関である上海音楽学院に入学。そこでピアノの研鑽を積むとともに、現代中国作曲界の重鎮である丁善徳(てい・ぜんとく)らに師事し、作曲の深淵を学びました。在学中から、西洋の緻密な和声理論と中国独自のたおやかな旋律をいかに高い次元で融合させるかという命題に没頭し、その真摯な探究心が後の独創的な作風の礎となりました。
1958年に同学院を卒業した後は、教職に就いて後進の育成に尽力しながら、創作活動において黄金期を迎えます。彼の音楽の真骨頂は、ピアノという西洋楽器を用いながら、古琴(こきん)や箏(そう)といった中国伝統楽器の繊細な指使いや、特有の揺らぎを完璧に再現する驚異的な筆致にあります。特に文化大革命という激動の時代においても、各地の民謡を精緻に編曲した作品を通じて、中国の魂を音楽の中に灯し続けました。
1980年代以降は上海音楽学院の副院長などの要職を歴任し、中国音楽の国際化を牽引する象徴的な存在となります。また、現代を代表する世界的なピアニスト、ユジャ・ワンを教え導くなど、教育者としても計り知れない足跡を残しました。彼の作品は今や国境を越え、世界中のステージで喝采を浴び続けています。晩年は家族と共にアメリカへ渡り、創作活動や教育の傍ら、静かに余生を過ごしました。そして2016年2月11日、アメリカのサンタフェ(ニューメキシコ州)にて82歳でその輝かしい生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:瀏陽河(りゅうようが)】
この曲は、王建中が1972年に発表したピアノ独奏曲の傑作です。もともとは1950年代に生まれた湖南省の民謡で、美しい瀏陽河の流れと、新しい時代への希望を歌った合唱曲がルーツとなっています。王建中はこの素朴で温かい旋律を、華麗なピアノ技法によって至高の芸術作品へと昇華させました。
【聴きどころ】
1)伝統楽器「箏」を彷彿とさせる繊細な響き
冒頭から現れる、細波のような装飾音に注目してください。ピアノの鍵盤を叩くのではなく、まるで東洋の弦を優しく震わせているかのような、繊細で気品あふれる音色が最大の魅力です。
2)光り輝く「水の描写」
曲の中盤から後半にかけて、流麗なアルペジオ(分散和音)が鮮やかに展開されます。これは陽光を反射してキラキラと輝きながら流れる瀏陽河の川面を象徴しており、ピアノが持つダイナミックな響きが存分に堪能できます。
3)希望に満ちた力強いクライマックス**
静かな川のせせらぎから始まり、最後には大地への賛歌を感じさせる堂々とした響きへと至ります。中国音楽特有の五音音階(ペンタトニック・スケール)が織りなす、温かくも情熱的なフィナーレは聴く者の心に深く響きます。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
王建中:瀏陽河
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