一日一曲(1834)エンリケス、マヌエル:á … 2
本日は、生誕100年(1926年6月17日生)を迎えらえたメキシコの作曲家、マヌエル・エンリケスさんの曲をご紹介します。
【マヌエル・エンリケス:メキシコの伝統的な響きを超え、自由な偶然性が織りなす「開かれた音楽」の扉を開いた先駆者】
メキシコ現代音楽の発展において計り知れない功績を残したマヌエル・エンリケス(Manuel Enríquez)は、1926年6月17日、メキシコのハリスコ州オコトランに生まれました。幼少期からヴァイオリンに親しみ、地元のグアダラハラで音楽を学んだ後、1950年代前半にはモレリアでミゲル・ベルナル・ヒメネスに作曲を師事します。1955年に奨学金を得てアメリカへ渡ると、名門ジュリアード音楽院でヴァイオリンをイヴァン・ガラミアンに、作曲をピーター・メニンやステファン・ヴォルペのもとで学びました。このニューヨーク留学中に十二音技法やセリエリズムといった最先端の前衛技法を吸収したことが、彼の作風を一変させる転機となります。
帰国後はメキシコ国立交響楽団の副コンサートマスターを務めるなど高名なヴァイオリニストとして活躍する傍ら、メキシコ国立音楽院の院長(1972〜74年)などの要職を歴任し、音楽教育や研究機関の充実にも生涯を捧げました。彼は伝統的な民族主義から脱却した「ポスト・ナショナリスト」としての立場を明確にし、メキシコにおける新たな美学の旗手として後進を牽引し続け、1994年4月26日にメキシコシティにて67歳でこの世を去りました。
【本日のご紹介曲:『á … 2』】
『á … 2』は、マヌエル・エンリケスが1974年にメキシコで作曲・出版した、ヴァイオリンとピアノのための作品です 。この曲は、当時メキシコでも広く活躍していた日本人ヴァイオリニストの黒沼ユリ子氏に捧げられました。
本作の最大の特徴は、楽譜に書かれた短いメロディや音の断片(フラグメント)を、演奏者がその場の判断で自由に並び替えて演奏できる「オープンワーク(開かれた作品)」という仕組みが取り入れられている点です 。
「オープンワーク」とは?
通常のクラシック音楽は、最初から最後まで楽譜の通りに演奏することが決まっています。しかし「オープンワーク」では、作曲家がいくつかの音のパーツ(断片)を用意し、「このパーツをどの順番で、どのタイミングで演奏するかは、本番のステージ上で演奏者が自由に決めて良い」というルールにしています。そのため、同じ曲であっても、演奏する日や演奏者によって全く異なるストーリー展開が生まれる、まるで「一度きりの即興演劇」のようなワクワク感を持つ音楽です。エンリケスはこの手法を用いることで、伝統的なメキシコ音楽の枠組みを飛び越え、新しい時代の瑞々しい音楽世界を作り上げました 。
【聴きどころ】
1)その瞬間だけに生まれる、ヴァイオリンとピアノのリアルタイムな対話
あらかじめ決められた順序がないため、ヴァイオリンとピアノの2人の演奏者は、お互いの出そうとする音をその場で機敏に聴き取りながら音楽を組み立てていきます。2人の間で交わされる、台本のないスリリングな駆け引きと緊張感が見どころです。
2)伝統にとらわれない、新世代の自由で知的な美しさ
かつてのメキシコ音楽に多かった「民族的なメロディ」や「わかりやすいお祭り特有のリズム」といったイメージとは一線を画しています。音の断片がパズルのように組み合わさることで生まれる、現代アートのように知的で洗練された響きを楽しむことができます。
3)演奏者の「自由な選択」が生むドラマ
演奏者が「どの断片をどのタイミングで選ぶか」によって、音楽の表情が穏やかにも、激しくも変化します。演奏者の個性がダイレクトに反映されるため、音楽が生き物のように形を変えていくドラマチックなプロセスに引き込まれます。
演奏者のインスピレーションによって形を変える、鮮烈な「開かれた音楽」の世界をぜひ体験してみてください。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
エンリケス、マヌエル:á … 2
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