一日一曲(1818)ベアセン、ホーコン:ヴァイオリン協奏曲ト長調

 本日は、生誕150年(1876年6月2日生)を迎えらえたデンマークの作曲家、ホーコン・ベアセンさんの曲をご紹介します。
(※日本のWikipedia等では「ハーコン・ボルレセン」と表記されることもありますが、音楽配信サービス(NML等)での検索性を考慮し、本記事では一般的な登録名である「ベアセン」の表記でご紹介します。なお、現地のデンマーク語の発音に最も近い響きは「ハコン・ブレスン」となります)

【ホーコン・ベアセン:北欧の豊かな情緒に彩られた美しい旋律と、卓越した管弦楽技法を生涯貫き続けたデンマーク後期ロマン派音楽の重鎮】
 ホーコン・ベアセン(Hakon Børresen)は1876年6月2日、デンマークのコペンハーゲンに誕生しました。ベアセンというノルウェー風の響きを持つ姓は、1800年代初頭にノルウェーからコペンハーゲンへと移住してきた彼の祖父に由来しています。軍籍のあった父親は当時、裕福な大実業家であり、当時の上流階級の家庭の嗜みとして、幼いホーコンもピアノやヴァイオリン、チェロ、そして音楽理論の指導を早くから受けて育ちました。
 彼が19歳になった1895年、作曲家になる道を進みたいと父親に打ち明けます。しかし父親は、息子に本当にその才能があるのかどうか権威ある人物の判断を仰ぐことを条件としました。そこで紹介されたのが、当時コペンハーゲンの王立劇場の指揮者などを務めていた高名なノルウェーの音楽家、ヨハン・スヴェンセンでした。若きベアセンがホテルに滞在中のスヴェンセンを訪ねると、葉巻を咥えて大変ラフな格好をした巨匠が彼を温かく迎え入れ、持参した楽譜を見るなり「これは本当に面白い」と絶賛して、認められた証として若きベアセンに葉巻を1本差し出したという印象的なエピソードが残されています。普段は弟子を取らないスヴェンセンでしたが、ベアセンを指導することを快諾し、数ヶ月後には父親の元を訪れてその才能を保証したことで、ベアセンは正式に音楽家への道を歩み出すことができました。
 巨匠のもとで4〜5年間熱心に学んだベアセンは、1901年に『交響曲第1番 ハ短調』を発表し、高い評価を得ます。この成功により奨学金を得た彼は、1902年にヨーロッパ各地(ライプツィヒ、パリ、ブリュッセルなど)へ留学に旅立ちました。当時のヨーロッパは近代音楽の潮流が芽生えつつある激動の時代でしたが、ベアセンはそれらの新しい波に惑わされることなく、自身のロマン主義的な情熱をさらに確固たるものに熟成させて帰国しました。帰国後の彼は極めて創作意欲に溢れ、1904年には彼の代表作となるヴァイオリン協奏曲を完成させています。
 私生活において、ベアセンは海をこよなく愛していました。コペンハーゲンの中心部に居を構える傍ら、デンマーク最北端の地「スカゲン」に家を持ち、人生の多くの時間をそこで過ごしました。スカゲンには当時、画家や詩人、音楽家たちが集まる有名な芸術家コミュニティがあり、ベアセンもその一員として多くの名曲をここで作曲しました。同じくスカゲンを訪れていたカール・ニールセンらとも交流し、芸術家たちの憩いの場であったアトリエの古いピアノは、後にベアセンへと受け継がれ、現在は現地の美術館に保管されています。
 1919年に発表した一幕のオペラ『王の客』は、彼の生涯で最大の商業的成功を収め、王立劇場で134回も上演されるロングランを記録しました。その後も精力的にオペラや舞台音楽、管弦楽曲の発表を続け、1924年からはデンマーク音楽家協会の会長を25年間にわたり務め、北欧の作曲家たちの連帯と協力のために多大な貢献を果たしました。ヨーロッパ全体が現代音楽へと移行していく中で、彼の書く甘美で伝統的なロマン派音楽は一時的に流行から外れ、忘れ去られそうになった時期もありましたが、確かな職人技に裏打ちされたその音楽の価値は色褪せることはありませんでした。デンマーク音楽界の重鎮として、また数々の音楽賞の設立者として慕われたベアセンは、1954年10月6日、78歳でその豊かな生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:ヴァイオリン協奏曲ト長調 Op.11】
 本作はベアセンが遺した唯一の、あるいは最も大規模な楽器のための協奏曲です。ヨーロッパ留学中の1902年にパリで着想され、帰国後の1904年にコペンハーゲンで完成されました。
 留学先で出遭った新しい現代音楽の技法に流されることなく、あえて自分自身の強みである「美しいメロディを紡ぎ出す才能」と「壮大なオーケストラを操る技術」を遺憾なく発揮した名作です。全編にわたって極めてロマンチックで情熱的な雰囲気が漂う一方で、独奏ヴァイオリンには極めて高い演奏技術(技巧性)が要求される華やかな仕上がりとなっています。
 1904年12月3日にコペンハーゲンの王立管弦楽団によって初演され、ベアセンの恩師である高名な指揮者ヨハン・スヴェンセンが指揮を執り、大成功を収めました。この曲の素晴らしさはデンマーク国内に留まらず、ベアセンから楽譜を贈られた世界的な名指揮者アルトゥール・ニキシュも大変気に入り、ドイツの有名なゲヴァントハウス管弦楽団をはじめ、ドイツ各地のコンサートで何度もこの曲を演奏し、ヨーロッパ中で愛されるプログラムとなりました。
 伝統的な3つの楽章で構成されていますが、楽譜には「それぞれの楽章の間で演奏を大きく中断せず、続けて演奏すること」という指示がなされており、全体が一つの壮大な物語のように流れる工夫が凝らされています。

【聴きどころ】
1)スリリングな幕開けと歌い上げる旋律(第1楽章)
 冒頭、オーケストラ全員が力強く同じメロディを一斉に奏でて始まりますが、それを遮るように独奏ヴァイオリンが即興的なソロで激しく登場します。この劇的な対比の後に現れる、ヴァイオリンがまるで歌を歌うかのように奏でる甘美でロマンチックな第二のメロディ(副主題)は、一度聴いたら忘れられないほどの美しさです。
2)極上のロマンチシズムに浸る静謐な時間(第2楽章)
 オーケストラによる詩的で静かな導入に続いて、独奏ヴァイオリンが極めて美しく抒情的なロマン派ならではのメロディを奏でます。オーケストラはヴァイオリンの美しいフレーズを邪魔しないよう、そっと優しく寄り添うような伴奏に徹しており、楽章全体がうっとりとするような深い情緒に包まれています。
3)圧巻の超絶技巧で駆け抜けるフィナーレ(第3楽章)
 小気味よいリズムのオーケストラに乗って、ヴァイオリンが非常に華やかで躍動感あふれるメロディを奏でます。終盤に向けてテンポが鮮やかに変化し、ヴァイオリン奏者が2つの音を同時に出すテクニック(重音奏法)や、1オクターブ離れた音を連続して弾き鳴らすダイナミックな技法など、息をもつかせぬ超絶技巧の応酬で圧倒的な高揚感のなか曲を締めくくります。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ベアセン、ホーコン:ヴァイオリン協奏曲ト長調

ベアセン、ホーコン:ヴァイオリン協奏曲ト長調(amazon music)

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です