一日一曲(1975)ハンソン、レイモンド・チャールズ:ピアノソナタ

 本日は、没後50年(1976年12月6日没)を迎えられるオーストラリアの作曲家、レイモンド・チャールズ・ハンソンさんの曲をご紹介します。

【レイモンド・チャールズ・ハンソン:独学で磨いた大胆な和声と躍動するリズムに、人間の葛藤と深い精神性を織り込み、独自の音楽世界を切り拓いた、20世紀オーストラリア音楽の異才】
 レイモンド・チャールズ・ハンソン(Raymond Charles Hanson)は、1913年11月23日、オーストラリアのシドニー郊外バーウッドに、5人兄弟の末っ子として生まれました。幼い頃から姉のピアノ演奏に親しみ、8歳頃には作曲を始めました。家庭の経済事情から十分な音楽教育を受けることはできませんでしたが、ピアノ教師アン・スピレーンの無償の指導を受け、作曲技法はほぼ独学で身につけました。
 1930年代にはピアニストとして活動する一方、自作の演奏会も開催しました。1941年には作曲の奨学金を得てニューサウスウェールズ州立音楽院に入学しましたが、第二次世界大戦によって学業を中断し、軍務に就きました。タスマニアでの従軍中、アメリカ軍の音楽家たちとの交流を通じてジャズに親しみ、その自由なリズムや即興性は後の作風に大きな影響を与えました。
 戦後は音楽院に復学し、アレクサンダー・バーナードに作曲を学びました。1948年からは同音楽院で教鞭を執り、和声、管弦楽法、作曲などを指導しました。ヒンデミットの音楽理論を研究する一方、インドの詩人タゴールの思想にも傾倒し、独創的な和声と精神的な深みを備えた音楽を追求しました。
 代表作には《トランペット協奏曲》(1948年)、《ピアノ・ソナタ Op.12》、オラトリオ《不滅の接触(The Immortal Touch)などがあり、管弦楽曲、室内楽、オペラなど幅広い分野に作品を残しました。また、ラリー・シツキーやロジャー・ウッドワードら、後のオーストラリア音楽界を担う音楽家たちの育成にも貢献しました。
 生前は作曲家として十分な評価を得られなかったものの、1976年にはオーストラリア勲章を受章しました。同年12月6日、シドニー郊外の自宅で63歳の生涯を閉じました。近年は録音や楽譜の出版が進み、その独創的な作品が再評価されています。

【本日のご紹介曲:ピアノソナタ Op.12】
 本曲は、1938年から1940年にかけて作曲され、1963年に改訂された、全3楽章からなるピアノ独奏曲です。演奏時間は約22分で、ハンソンの最も重要な作品の一つとされています。
 作曲の背景には、第二次世界大戦、とりわけ1940年のパリ陥落による衝撃がありました。しかし、ハンソン自身が後に語ったように、作品は戦争の悲劇を描くものから、人生において個人が直面する困難や苦悩を表現する、より普遍的な音楽へと発展しました。本曲は、若き日に無償でピアノを教えてくれた恩師アン・スピレーンに献呈されています。

 第1楽章は、力強いリズムと重厚な和音が印象的な、緊張感に満ちた音楽です。異なる調性を重ねる複調の技法や、オクターブを駆使した技巧的なパッセージによって、激しい葛藤や不安が表現されます。
 第2楽章「Andante espressivo」は、一転して静かで瞑想的な世界が広がります。繰り返される和声的な音型の上に澄んだ旋律が浮かび上がり、時間の流れが止まったかのような雰囲気を生み出します。やがて音楽は情熱的な頂点に達しますが、最後には冒頭の沈思するような静けさへと戻ります。
 第3楽章は、絶え間なく動き続けるリズムによって始まります。前の2つの楽章の音楽的要素が再び現れ、激しい動きと穏やかな内省が交錯しながら、作品全体を統一していきます。最後は「molto patetico e bravura(非常に悲痛に、そして華麗に)」と指示された劇的なコーダによって締めくくられます。

 戦争の悲劇から出発し、人間の苦悩と内面の静けさを描いた本曲は、ハンソンの大胆な和声感覚と豊かな表現力が結実した、20世紀オーストラリアのピアノ音楽を代表する力作です。

【聴きどころ】
1)第1楽章:激しい葛藤を描く重厚な響き
 力強いオクターブの連続や巨大な和音、複調による緊張感に注目です。荒々しいエネルギーの中に、人間が困難に立ち向かう姿が浮かび上がります。

2)第2楽章:瞑想的な静けさと情熱的な高まり
 繰り返される和声の上に漂う、澄んだ旋律が魅力です。静かな祈りを思わせる音楽が、次第に情熱的な頂点へと高まり、再び静寂へと戻っていく変化を味わってください。

3)第3楽章:躍動するリズムと劇的な終結
 休みなく動き続けるリズムと、途中に現れる穏やかな部分との対比が聴きどころです。前の楽章の要素も取り込みながら緊張を高め、悲痛さと華麗さが交錯する壮大な終結へと向かいます。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ハンソン、レイモンド・チャールズ:ピアノソナタ

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