一日一曲(1829)シュヴァイツァー、ロルフ:レクイエム《1945年2月23日》
本日は、没後10年(2016年6月6日没)を迎えらえたドイツの作曲家、ロルフ・シュヴァイツァーさんの曲をご紹介します。
【ロルフ・シュヴァイツァー:20世紀後半のドイツ教会音楽界に多大な足跡を残した、ジャズの感性をも融合させた現代のルター派宗教音楽の巨匠】
ロルフ・シュヴァイツァー(Rolf Schweizer)は、1936年3月14日にドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州エンメンディンゲンに生まれました。幼少期に地元のブラスバンドで音楽の基礎に触れた彼は、やがて本格的な音楽の道を志し、ハイデルベルク教会音楽大学に進学します。同大学では、ドイツ現代音楽の重要人物であるヴォルフガング・フォルトナーや、ジャズの手法を教会音楽にいち早く取り入れたハインツ・ヴェルナー・ツィンマーマンらのもとで熱心に学び、独自の音楽観の礎を築きました。
大学卒業後の1956年から10年間、マンハイムのヨハニス教会でカントル(教会音楽家)兼オルガニストとしてキャリアをスタートさせます。そして1966年、30歳の若さでプフォルツハイムの伝統ある市教会(Stadtkirche)の音楽監督に就任しました。ここからの35年以上にわたる精力的な活動が、彼の生涯の中核となります。彼は地区カントル、さらには中央バーデン地方の「州カントル(Landeskantor)」を歴任しながら、プフォルツハイム・オラトリオ合唱団、モテット合唱団、青年聖歌隊、バッハ管弦楽団などを次々と組織・指揮しました。
バッハをはじめとする古典作品の優れた解釈者として数多くの録音を残す一方で、伝統的な枠組みに捉われない「新しい教会歌曲(Neues Geistliches Lied)」の熱心な推進者としても知られました。現代的なリズムやポピュラー音楽、ジャズの色彩を大胆に導入した彼の親しみやすい讃美歌は、ドイツのプロテスタント教会讃美歌集(Evangelisches Gesangbuch)にも7曲が採用され、今なお多くの人々に歌い継がれています。その傑出した功績により、1984年には教授職(Professor)の称号を授与され、1991年に市名誉指輪、1998年にはプフォルツハイムの「名誉市民」に選ばれました。2001年に惜しまれつつ職を退いた後も、フリーアムトなどで精力的に音楽活動を継続。晩年は娘がカントルを務めるバイエルン州のゼルブへと移り住み、2016年6月6日に80歳でその豊かな生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:レクイエム《1945年2月23日》(生者と死者のために)】
彼の膨大な作品群の中でも、作曲家としての最高峰の達成と評されているのが、1995年に発表されたこの壮大なレクイエムです。
この作品の背景には、プフォルツハイムの街が経験した極めて痛ましい歴史があります。第二次世界大戦末期の1945年2月23日の夜、この美しい街はイギリス軍による大規模な空襲(プフォルツハイム空襲)に見舞われました。わずか20分足らずの猛爆撃によって、市街地の8割以上が壊滅的な打撃を受け、当時の街の人口の約4分の1にあたる1万7000人以上(一説には約1万8000人)もの尊い命が瞬時に奪われたのです。
この大惨禍からちょうど50年を迎えた1995年、プフォルツハイム市からの委嘱を受ける形で、当時この街の音楽界のトップにいたシュヴァイツァー自身によってこのレクイエムが誕生しました。作品はラテン語による伝統的な典礼文(キリエやサンクトゥス、アニュス・デイなど)をベースにしながらも、それだけにとどまりません。ドイツ語の聖書テキスト(詩編や預言書など)や劇的な朗読が縦横無尽に織り交ぜられており、全曲で約90分にも及ぶ非常に大規模な構成を誇ります。
初演はシュヴァイツァー自身の指揮のもと、プフォルツハイム・オラトリオ合唱団やモテット合唱団、青年聖歌隊、バッハ管弦楽団、そして南西ドイツ管楽ソリスト&打楽器アンサンブルなど、彼が手塩にかけて育てた息のかかった名手たちが集結して行われました。死者への厳かな追悼はもちろんのこと、生き残った人々(生者)が抱える深い心の傷への寄り添い、そして未来への強い平和の願いが込められたこの作品は、戦災の記憶を音楽によって語り継ぐ現代のモニュメントとして、ドイツ宗教音楽界で極めて高く評価されています。
【聴きどころ】
1)伝統的な祈りと現代的な語りの融合
美しいソプラノ独唱や重厚な合唱がラテン語で伝統的な祈りを捧げる合間に、ドイツ語による生々しい朗読(語り手)が巧みに挿入されます。このナレーションが加わることで、まるで壮大な歴史のドキュメンタリーや劇伴音楽を聴いているかのような緊迫感が生まれ、言葉のメッセージがダイレクトに心に突き刺さります。
2)「怒りの日(Dies Irae)」での圧倒的な打楽器の緊迫感
空襲という非戦闘員を巻き込んだ戦争の惨禍をリアルに表現するかのように、伝統的な合唱の背後で管楽器や打楽器アンサンブルが激しく駆動します。まるで現代の映画音楽を彷彿とさせるような、ダイナミックでスリリングな音響構築は圧巻の一言であり、聴き手を一気に作品の緊迫した世界観へ引き込みます。
3)平和への昇華と本物の「教会の鐘の音」
終曲の「ドナ・ノビス・パーチェム(われらに平和を与え給え)」に向けて、音楽は激動のドラマから深い祈りと静けさへと昇華されていきます。そしてシュヴァイツァー自身が指揮した録音の最後には、あの激しい空襲を奇跡的に耐え抜き、戦後に再建されたプフォルツハイム市教会の本物の「死者の鐘(Totenglocke)」の音が長く響き渡ります。音楽が現実の祈り、そして歴史の記憶へと地続きに繋がっていく感動的な結末です。
本日は、その初演時の演奏の録音です。作曲者自身の渾身の指揮、そして、オルガンは作曲者の娘さんであるコンスタンツェ・シュヴァイツァーさんが担当しています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
シュヴァイツァー、ロルフ:レクイエム《1945年2月23日》
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