一日一曲(1869)ハーシェル=ヒル、アンソニー:トッカータ
本日は、没後10年(2016年7月22日没)を迎えらえたイギリスのピアニスト兼作曲家、アンソニー・ハーシェル=ヒルさんの曲をご紹介します。
【アンソニー・ハーシェル=ヒル:伝統に根ざしたヴィルトゥオーゾの魂を現代に蘇らせるイギリスの隠れた奇才】
アンソニー・ネルソン・ハーシェル・ヒルは、1939年4月23日にイギリスのシュロップシャー州シュルーズベリーに生を受けました。著名な精神医学者である父サー・デニス・ヒルと、高名な天文学者・作曲家の血を引く母フィービーのもとに生まれた彼は、母方の偉大な先祖の名をミドルネームに授かり、幼少期から豊かな芸術的環境の中で育ちました。音楽への情熱を開花させた彼は王立音楽大学へ進学し、ピアノ、オルガン、作曲の各分野で主要な賞を総なめにするほどの頭角を現します。同大学ではシリル・スミスやハーバート・ハウエルズといったイギリス音楽界の巨匠たちに師事し、その後はパリに渡って伝説的な大音楽教師ナディア・ブーランジェや、名ピアニストのルイス・ケントナーからも直接指導を受けるなど、ヨーロッパ音楽の正統な伝統と高度な技法を徹底的にその身に刻み込みました。
彼の残した全作品の数は決して多くはありません。しかし、ピアノ曲や室内楽曲、あるいは優れた聖歌など、どれもが極めて高い完成度と独自の響きを誇っています。特に彼が書いた教育的な小品は、英国王立音楽検定(ABRSM)の課題曲としてしばしば採用され、多くの若い音楽家たちの指針となってきました。また、ロンドンのチェルシーにある歴史ある聖シモン・ゼロテス教会の高名な聖歌隊ディレクターを長年にわたって務めるなど、教会音楽の発展と地域に根ざした音楽活動にも熱心に貢献し続けました。 リストやラフマニノフ、さらにはバルトークやプロコフィエフへと脈々と受け継がれてきた「ピアニスト兼作曲家」という大いなるヴィルトゥオーゾの伝統から確かなインスピレーションを得ながらも、どこまでも現代的で強烈な個性を放つ音楽世界を築き上げたハーシェル・ヒルは、2016年7月22日、ロンドンのシティ・オブ・ロンドンにてその豊かな生涯を閉じました。
【本日のご紹介曲:トッカータ】
1985年に作曲された「トッカータ」は、彼のピアノ音楽における真骨頂を味わうことができる傑作です。この作品は、ピアノという楽器が持つすべての色彩と音響を完璧に見通した卓越した手腕によって書かれており、20世紀後半のピアノ音楽の中でもとりわけ爽快で、楽器の魅力を極限まで引き出した素晴らしい書法が光っています。
形式としては、前後に激しい部分を配し、中間に異なるキャラクターを置いたシンプルな三部形式(A-B-Aの構成)の単一楽章で書かれています。そのため全体の構造がすっきりと見えやすく、現代の作品でありながらも非常に耳に馴染みやすいのが特徴です。それでいて、単なるお決まりのクラシック音楽には留まらない、聴き手をぐっと惹きつけるダイナミックでスリリングなドラマが展開されます。
【聴きどころ】
1)ピアノのすべての色彩を引き出す完璧なコントロール
ピアノという楽器が持つすべての音色や響きの可能性を支配したかのような、20世紀後半の作品の中でも屈指の鮮やかで立体的な音響空間を体感できます。
2)悪魔的な緊迫感とスリリングな「ピアノの火花」
どこか不穏で、メフィストフェレス(悪魔)を思わせるようなダークでゾクゾクする雰囲気が漂う中、息をのむような素晴らしいピアノの火花が鍵盤上で飛び散ります。
3)安易な技巧のひけらかしを排した、深い表現力
単に難しそうに弾くだけの薄っぺらな超絶技巧ではなく、緻密に構成された不穏な緊張感と感情のうねりが、音楽全体の圧倒的な説得力と力強さを生み出しています。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ハーシェル=ヒル、アンソニー:トッカータ
ハーシェル=ヒル、アンソニー:トッカータ(amazon music)
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