一日一曲(1837)ド・ラランド、ミシェル=リシャール:『王の晩餐のためのサンフォニー』より「組曲第1番」

 本日は、没後300年(1726年6月18日没)を迎えらえたフランスの作曲家、ミシェル=リシャール・ド・ラランド(ドラランド)さんの曲をご紹介します。

【ミシェル=リシャール・ド・ラランド:太陽王ルイ14世の絶対王政を絢爛豪華な「食卓の音楽」で彩り、フランス・バロック音楽の頂点を極めた宮廷楽長】
 ミシェル=リシャール・ド・ラランド(ドラランド)は1657年12月15日、パリの仕立屋の家に生まれました。幼少期よりパリの王立教会(サン=ジェルマン=ロクセロワ教会)の聖歌隊員として優れた音楽教育を受け、宮廷音楽家たちとの接点を持っていきます。1678年、21歳の時にジャン=バティスト・リュリが率いる宮廷オーケストラの団員に応募したものの、若すぎるという理由で一度は拒絶されてしまいました。
 その後、パリのいくつかの教会のオルガニストを務めながらチェンバロの指導を行うようになると、その優れた才能が瞬く間に高名な宮廷貴族の間で評判となり、ルイ14世の庶子である娘たちの教師に抜擢されます。そして大きな転機となったのが1683年、王が主催した王室礼拝堂の副楽長(sous-maître)の選考コンクールでした。15人の作曲家が競い合う中、ルイ14世自らがラランドの書いた作品を勝者として選び、宮廷への任官が正式に決定したのです。
 ここから彼の40年以上にわたる栄光の宮廷キャリアが始まります。ラランドは王の信頼を一身に集めて出世の階段を上り続け、1689年には宮廷王室室内楽の総監督(Surintendant)に就任しました。彼の中心的な任務は王室礼拝堂のための宗教音楽の作曲であり、生涯で70曲を超える壮大な「大モテット(グランド・モテット)」を生み出してこのジャンルを至高の域へと高めました。それと同時に、王の娯楽のための舞台音楽や、宮廷の儀式を彩るための器楽曲の作曲にも情熱を注ぎました。彼はルイ14世の治世から次代のルイ15世の治世に至るまで長く宮廷音楽を支配し、1726年6月18日にヴェルサイユの自宅でその輝かしい生涯を閉じました。

【本日のご紹介曲:『王の晩餐のためのサンフォニー』より「組曲第1番」】
 ド・ラランドが長年にわたり王の晩餐のために書き溜めた約300もの膨大な楽章は、のちにいくつかの「組曲(Suite)」として編纂されました。ラランド自身が遺した楽譜は、主旋律と低音のみが書かれた不完全な状態(縮小譜)でしたが、後世の音楽学者や演奏家たちによって当時の華やかなオーケストラ編成へと見事に復元されています。
 本日ご紹介する「組曲第1番(ハ短調)」は、厳かでありながらも躍動感に満ちた、フランス・バロックのエッセンスが詰まった名品です。
 本曲の原題は 『Symphonies pour les Soupers du Roy』 です。フランス宮廷において、王の食事には「昼食(Dîner)」と「晩餐(Souper)」があり、音楽が伴うのは基本的に夜10時頃から行われる公開の「晩餐(Souper)」の儀式でした。この晩餐は単なる食事ではなく、王の権威を廷臣や観衆に見せつけるための厳格な宮廷パフォーマンス(儀礼)でした。したがって、この作品は単なる「王のための音楽」ではなく、「王が晩餐をとるという神聖な儀式の最中に、その場を華やかに彩るために演奏された音楽(食卓音楽)」という極めて固有の役割を持っています。「晩餐のための」を省略してしまうと、他の祝典曲や狩猟の音楽などと区別がつかなくなり、作品の本来のコンセプトが隠れてしまいます。そのため、ナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)の訳である『王の晩餐のためのサンフォニー』とするのが、歴史的にも音楽的にも最も正確で正しい題名です。

【聴きどころ】
1)威厳に満ちた晩餐の幕開け「プレリュード(Prélude)」
 組曲の第1曲目を飾るこの前奏曲は、フランス宮廷音楽らしい厳格で気品ある雰囲気を湛えています。決して耳障りにならず、しかし宮廷の格式高さを一瞬で引き締めるような堂々とした美しい旋律は、これから始まる豪華な食卓の始まりを告げる合図として素晴らしい効果を発揮しています。
2)気品に満ちた内省的な美しさ「哀愁を帯びたエール(Air grave)」
 組曲第1番の中盤に登場する「Air grave(厳かなエール)」や「Trio(トリオ)」では、きらびやかな宮廷の喧騒から一歩引いたような、美しくも少し切ない陰影を含んだメロディが流れます。ただ派手なだけでなく、王の耳を飽きさせない繊細な感情表現が組み込まれている点が、ラランドの作曲技法の高さを示しています。
3)気宇壮大なクライマックス「パッサカリア(Passacaille ou Grande Pièce)」
 組曲第1番の締めくくりに置かれた「パッサカリア(または大楽曲)」は、5分を超える本作最大の聴きどころです。低音で繰り返される一定のテーマ(変奏の土台)の上で、高音の楽器たちが次々と華麗なバリエーションを展開していきます。次から次へと豪華な料理が運ばれてくる宮廷の食卓の絶頂期を思わせる、息をもつかせぬ壮大なフィナーレをお楽しみください。

NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)より(NML会員以外の方でも無料で試聴できます)
ド・ラランド、ミシェル=リシャール:『王の晩餐のためのサンフォニー』より「組曲第1番」

ド・ラランド、ミシェル=リシャール:『王の晩餐のためのサンフォニー』より「組曲第1番」(CD)

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